帯状疱疹(1)

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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帯状疱疹(1)

【ノーパン闘病記 Part 1】

おりょ?
パンツのゴムがきついのかな?

そんな、ごく軽い不快感が始まりだった。
太ももの内側、脚の付け根のあたりが、痛いというほどでもないが、なにか違和感がある。なんだろうとスカートをめくって見たが、べつにどうということはないので、ほうっておいた。

ところが次の日、朝起きて、びっくり。
太ももの前面から内側にかけて、ウワッと赤い斑点が湧き出ている。ホント、いきなり湧いて出た、って感じ。な、な、なんじゃ、こりゃ?

「あ、そりゃ虫刺されだから、抗ヒスタミンの軟膏を塗ればいいよ」
と、父ちゃんは知ったふうなことをいう。

ちょっと待てぃ、おっさん。
あたしゃ虫なんかに刺された覚えはないんだよ。しかも、太ももの内側なんてデリケートなところ、刺されたらすぐにわかるって。

いやいや、知らないうちに刺されることだってあるんだから、という父ちゃんを無視して、軟膏は塗らず、そのかわり、少しレイキをやった。ところが、治るどころか、逆に痛みが出てきた。

次の朝。
ギョッ、赤い斑点がぽっこりと盛り上がってる。そして増えている。数は50個ぐらい? いや、もっとあるか。あきらかに悪化してるじゃないか。前日の午後と晩にやったレイキ、あれは何だったの? 

これまで、自分の体の故障はほとんど、自分でレイキをやって治してきたので、レイキが効かないことが、じわじわと不安をかきたてる。
いったい何だよーう、これはッ!

近くに住むレイキの師匠、アランのお父っつぁんに泣きつこうかと、彼の顔が目の前にチラつくけどなあ……。忙しいおっさんやしなあ……。

痛みは時々チクーッと、強烈なのがやってくる。蜂に刺されたような、熱くて鋭い痛みだ。クシャミをしただけでも、チクーッと針を刺される。しゃーない、あしたの朝も痛かったら、お父っつぁんに電話して、とりあえずアドバイスをもらおう。

次の朝。
赤い斑点のそれぞれの中心に、ぷっくりと水疱ができていた。ますます進行している。お父っつぁんに電話して、
「発疹ができてンですけど、こういうのってレイキはダメですかぁ?」
と聞くと、

「発疹もいろいろあるから、まず医者に診断してもらってくれ。それによって対処法を指示するから」
というお言葉。

しゃーない、医者嫌いのわたしだが、行かにゃなるめえ。しかしなあ、発疹の場所が場所だもんなあ。こりゃもう、パンツ丸見せで診てもらわにゃならんなあ。

わたしたちのGP(ホームドクター)の亀さんの顔が浮かぶ。この先生、ファミリーネームが「タートル」なので、ドクター亀。父ちゃんとわたしの間では、亀、亀と呼び捨てである。

亀は、鼻の穴と耳の穴から、うわっと白髪まじりの毛を出している、声のデカい中年のおっさんである。色男でもないから、パンツを見せるのはどうってこたァないが、ま、一応、きれいなパンツをはいていかんとな。やっぱ、エチケットとしてな。

で、スカートをめくってパンツを点検すると、ん?
やっだァ、出ちゃってるではないか!

いや、こりゃちょっと、マズイよ、マズイよ。いくら相手は鼻毛ぼうぼうの亀でも。わたしは毛深いほうではないけれど、やーだ、ちょっとパンツからはみ出てるよォ。

なにしろ普段、ビキニラインとか、そーゆーオケケの手入れしてないもんなあ。水着を着ることもほとんどないし。こりゃーイカン、こんなお股でドクターに診てもらうなんて、あたくしのコカン、いや、コケンにかかわりますっ!

ってんで、あわててハサミでトリミング作業をしてたら、ハサミで毛を切るつもりで、身をいっしょにはさんで、アイタタターーーッ!!!

さらに、刈り取った毛だと思って、くっついているヤツを思いっきり引っ張って、イデデデデェーーーッ!!!
んもう、疱疹の痛みなんか、ぶっ飛んじまったよ、ったく。


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ヒリヒリする股間を押さえながら、車に乗り込むと、運転席の父ちゃんは、はなはだ機嫌がよろしくない。

「ぼくが医者に行けと言っても、いつも無視するくせに、どうしてアランが言えば素直に行くんだ」
と、むくれる、むくれる。

い、いや、そりゃまあ、アランは代替医療の専門家だからサ、医者の診断は、ほら、レイキの治療法を教えてもらうためなのよう、となだめすかして車を出してもらった。

診療所はわが家から車で5分のところにある。受付をして30分ほど待って、診察室に入った。前回ドクター亀に会ったのは、インフルエンザをやったときだったから、5、6年前か。

相変わらず立派な鼻毛と耳毛を生やした亀さんは、相変わらず机上のラップトップ(ノートパソコン)を前にして、ガマのごとくうずくまっていた。

イギリスの医療制度は、日本とはかなり違う。医者にかかるには、まず、自分の住んでいる地域の診療所に行って、GPと呼ばれるホームドクターに登録しなくてはならない。だから、新しい土地に引越したら、まず一番にやるのがこれだ。

そして、具合が悪くなると、病気が何であれ、自分の登録したGPに行く。たとえ目が悪かろうが、痔が悪かろうが、自分で勝手に眼科や肛門科に行くことはできない。GPが、専門の治療が必要だと認めた人だけ、専門医に送られる。

だから、GPの仕事は診断を下すことと処方箋を書くこと。注射や処置は別室で看護婦がやるのだろうが、わたしはまだ、亀さんのところで注射をされたことが一度もないので、よくわからない。

ガランとした診察室には、ほとんど医療器具がないので、まるで普通のオフィスだ。かろうじて医務室らしきものといえば、部屋の片隅の診察用のベッドと体重計ぐらいだろう。

この体重計がまた、おっそろしくアンティークで。台から1メートルくらいの高さのところに、物差しのような棒状の目盛りがあって、そこに付いているおもり(?)を移動して計る。こんな体重計、日本では見たことがない。

部屋の中央には、どっしりとした木製の両袖机があって、患者が出入りするドアの方に向かって、亀さんが座っている。

机の上にあるのは、ラップトップ(ノートパソコン)とプリンター。その他には、まあ、一応、医者らしく、血圧計と聴診器なんぞが置いてある。

「こんな発疹が出てるんですけど」
といって、スカートをめくると、それを見るなり、亀さんは例の大声で言った。
「ああ、こりゃシングルズだよ、シングルズ」

ゲッ、シングルズといえば、……帯状疱疹じゃないか。
ヤッバイなあ、こりゃ……。

シングルズと聞いて、わたしの脳裏に飛び込んできたのは、日本にいる父のことだった。父は2,3年前に帯状疱疹をやって、その後遺症の神経痛で痛みが続き、とうとう神経ブロックを受けた。

その記憶が新しいだけに、神経痛が残ったらヤバイな、どうしょう、と一気に不安が押し寄せる。

「はい、この薬を1週間続けて飲んでね」
亀さんはパシャパシャとパソコンのキーを叩いて、処方箋を打ち出した。

プリンターから出てきたそれを渡して、ハイ、一丁あがり。次の方どうぞ〜。
というノリで、診察は3分とかからなかった。ろくにシングルズについての説明もない。

わたしは過去の経験から(これは亀さんではなくて別の医師だったが)、なんでも屋のGPというものをあまり当てにしていないので、質問もしなかった。

それよりは、インターネットの方が頼りになる。日本の専門医のサイトを調べて、まずはその病気についての知識を得る。それがわたしのいつもの対処法だ。

薬は診療所ではくれないので、処方箋を持って薬局に買いに行く。診察が終わった足でそのまま薬局に行き、処方された抗ウイルス剤を買った。そして、その日の午後から服用が始まった。

次の日――
帯状疱疹はいよいよ本性をむき出して、本格的に暴れだした。予想外の痛みである。それにくらべれば、これまでの痛みなんぞ、ハナクソだ。

トイレに行ってパンツを上げ下げするたびに、それが疱疹に触って激痛が走るので、とうとうパンツを履くのをやめた。この日から2週間、わたしはノーパンで過ごすことになる。

5年前に乳ガンの宣告を受けて以来、健康に気をつけるようになったせいか、風邪で寝込むことさえもなかったわたしにとって、今回の帯状疱疹が、はじめての病気らしい病気だ。

しかし、この病が、どんなにか幸運な形でやってきてくれたことか。
闘病中、あらためて思い知ることになった。

                  ―― 次回に続きま〜す ――


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