男のストリップ

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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男のストリップ

うひひひ。見たぞ、見たぞ。
え? 何をって? ストリップですよ、ストリップ。そっ、男のストリップ。

アメリカのチッペンデールズという、逞しい男たちのストリップチームの公演が、ロンドンであった。日本の旅行会社の添乗員をやっているN子さんが教えてくれたのだが、ウブなわたしは、そういう情報にはじつに疎(うと)くて、ちぃーっとも知らなかった。

「え? チッペンデールズ? 何それ。そんなもん、食べたことない」
「やっだあ、チッペンデールズも知らないのぉ? 遅れてるぅ。もう何年も前からやってるのに」

彼女は、わたしをバカにした目つきで見た。彼女のオデコには、《わたしはすでにあれを見た》という余裕と優越感が、ペタリと張りついている。

その余裕のせいか、おっとりとかまえて、同僚とロンドンで見たときのことを、ニシニシ笑いながら話してくれた。

ホテルのフロントで、チケットの手配を頼んだらニヒヒと笑われ、タクシーに乗って劇場の名前をいうと、運転手にニヒヒと笑われ、結局自分たちもなんとなくニヒヒと笑っているうちに、すっかり顔がニヒヒ状態になって劇場に入ったそうである。

「でも、そんなにいやらしくなかったわよ。お尻なんかコリンとして可愛いの。なーんだ、まだ見てないのなら、あなたも誘ってあげればよかった」
などと、悔しさに歯ぎしりするわたしの前で、余裕しゃくしゃくである。

それからしばらくして、お医者様の奥様のK子さんが、ロンドン滞在中に娘と見に行ったと、けしからんことをいってきた。えーい、なんでみんな、わたしの知らぬまに行くんだっ。

「あーら、あなた、まだだったの。じゃお誘いすればよかったわね。娘ったら、逞しい男の子と写真まで撮っちゃって、ホホホホ」
と、やはり彼女のオデコには、《わたしはすでにあれを見た》の優越感がペタリ。

ふーんだ、いいもん、いいもん、と拗ねてぐずぐずしているうちに、チッペンデールズは夏のロンドン公演を終えて、アメリカに帰ってしまった。

そして次の年。ストリップのことなどすっかり忘れていたが、無料で配布されるローカル新聞の広告が眼にとまった。な、なんと、あのチッペンデールズが、この田舎町のマーゲイトにやって来る!
 
わたしはさっそく、日本に帰っていたN子さんとK子さんに連絡して、「今年は見るぞ!」と、高らかに宣誓したのである。むろん、ふたりからは「頑張って!」とコールが送られてきた。

宣誓したのはよいけれど、ひとりで行くのはどうも心もとない。誰を誘おうか。そうだ、 カレッジのミーハー秘書たちを誘おう。

案の定、ジェシカとドロシーは大いに乗ってきて、ジェシカが率先してチケットの手配をしてくれた。ところが、このことを同僚のポーリーンが知って、自分を誘わなかったことで怒って、秘書たちと口をきかなくなってしまった。

オフィスは、ギクシャクとしたムードに包まれた。そりゃまあ、声をかけなかったのは悪かったけど、あのときポーリーンがその場にいなかったから、つい、誘うのを忘れてしまって……。

でもさあ、ポーリーンってのは五人の孫のいるお婆ちゃんだから、なんとなく、はずしてもいいかなと……。

ところがこのあと突然、思いもよらぬ事件が起きて、ポーリーンはわたしたちに同行することになったのである。

その事件とは、なんと、秘書のジェシカが、駆け落ちしてしまったのだ。ジェシカには十歳の息子がいるが、その子のサッカーの試合を見に行ったとき、そこに来ていた父兄のひとりと、恋に落ちたのだそうな。

そして、職場の机の上に、「もうここには来ません」というメモを残しただけで、息子を連れて、スタコラサッサと逃避行。

こういう場合、子供を置いて出るケースが多いが、ジェシカの場合は再婚で、今の夫が息子の父親ではないので、残して出るわけにはいかなかったのだろう。

既婚者同士の駆け落ち事件など、イギリスではよくある話で、珍しくもない。実際に、わたしのまわりでも、いくつかの家庭が崩壊した。

ジェシカは秘書だが、経理も担当していて、その月の給料計算を放ったまま遁走したために、職員の給料の支給が遅れた。

家庭における母親としての責任、職場における仕事に対する責任、そんなもろもろのしがらみを、ええーい、知ったことかい、と、うっちゃって、恋の逃避行に突っ走る。

それができる女たち――現実に、この国に、そういう女たちが相当数いることに驚愕する――、ある意味ではうらやましくも思うのだが、しかし、ねえ……。


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ええっと、何の話をしてたんだっけ。
あ、そうそう、チッペンデールズ。

ジェシカは、仕事の引継ぎはおかまいなしにトンズラしたくせに、なぜかチッペンデールズのチケットだけは、ちーゃんとドロシーに引継いでいたのである。

誰か代わりに行ってくれと渡されたチケットで、ポーリーンを誘い、彼女の機嫌もなおって、オフィスには再び平和が訪れた。

さて、いよいよ公演の日がやってきた。
会場に入ると、若い娘やおばさんパワーでムンムン、異様な熱気である。

ショウが始まるまで、幕のおりたステージで、三、四人のチッペンデールズのメンバーが坐って、群がる女の子たちにサインをしていた。

そのうち突然、雷鳴のような炸裂音がとどろき、鋭いビートのロックミュージックで、ショウが始まった。ストリップというより、ディスコの雰囲気。

ボルサリーノをかぶった白いスーツ姿の、カッコいいお兄さんたちが出てきて、踊りながらパッと帽子と上着を取る。男のストリップは、女と違って、なよなよと脱ぐわけにはいかないから、シャツなんかも勢いよくバッと脱いじゃう。

パンツを脱ぐときは、ちょっとじらせてみせたりするけれど、それでも意外とあっさり取ってしまう(パンツの下にTバックをつけているから、素っ裸ではない)。

そうなると、音楽も「タブー」なんぞをチンタラ流してもしょうがないんで、ロックがガンガン鳴り響く。するとやっぱり、雰囲気はディスコなのである。そして、女の子の黄色い声援がひっきりなしで、まるでアイドル歌手のコンサート。

驚いたのは、開演後三十分くらいでトイレに立つ人が続出したこと。興奮すると尿意をもよおすとはあんまり聞いたことがないけど、何だろう、あの人たち。

でも、男の裸が刺激となって、それが下半身になんらかの変化をもたらしたとすれば、いいよなあ、そういう人は。

だって、そこまで興奮できれば、おなじ料金を払っても、充分にもとを取ったという気がする。わたしたち三人の不感症女は、下半身に何の変化もなく、席に坐ったままだったが。

チッペンデールズのメンバーは、全部で十二、三人。それが数人づつ入れ換わり舞台に現れて、歌って踊ってのミュージカル・ショウだが、音楽ガンガン、声援キャーキャー、ダンスはパワフル&ダイナミック。

だから、日本の温泉街などで見かける、女のストリップのような妖しげな雰囲気が、ここにはまったくない。むしろ、健全といっていい。

ボディビルで鍛えた逆三角形の見事な体躯、そして淺黒い肌。日焼けした金髪の男というのは、なかなかセクシーである。

人種も、ア ングロサクソン系、ラテン系、黒人といろいろ取りそろえてある。その中に、ダンスがずば抜けて上手い黒人がいて、わたしはその人ばかり追っていた。

衣装もゲリラの兵士だの、黒革のライダースーツだの、士官候補生の白い制服だの、いろいろだが、この白い制服には笑ってしまった。これはセーラー服とか看護婦さんの男性版、ってとこでしょうな、きっと。

その白いズボンを脱いで、トランクスを脱ぐとき、ゴムの分部が下につけているTバックに当たって、中身がプルンと可愛く揺れたので、観客はギャーッハッハと大笑い。

もちろん、思わせぶりなエッチなシーンもある。たとえば、ひとりの男が仰臥して大きなオモチャのバナナ(何のことかよくわからないけど)を股間に当てて、それをしばらく手でこすって(何のことかよくわからないけど)――

なーんてシーンも、大げさに漫画化された演出で、エッチというよりはお笑いなのだ。そう、これはお笑いショウとしても楽しめる。

女は男と違って、視覚的刺激が性感に直結していないから、男の裸を見たからといって、そんなに興奮することはない。


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休憩をはさんで、一部と二部、合計三時間のショウが終ると、ステージで写真撮影が始まった。五ポンド(約千円)くらいだったと思うが、お金を払って、チッペンデールたちと記念撮影をするのである。

ステージには、そのための長い列ができていたが、わたしたちはギフトショップに向かった。カレンダー、Tバック、Tシャツ、帽子などのチッペンデール・グッズが並んでいる。

わたしとポーリーンは、一番安い三ポンドのカレンダーを、ドロシーは七ポンドの黒のTバックを買った。

「これ、ギャリーにおみやげ」
片目をつむって、ニヤリと笑う。警察官である彼女の夫ギャリーのTバック姿ねえ……。ま、悪くないかもな、わりとハンサムだし。

このショウを見た数日後――
添乗員のN子さんから電話が入った。お年寄りのグループを引率して、スイスにハイキング・ホリデーに来ているという。

彼女は、マッターホルンを眺めるハイキングから帰って、サウナに入ってビールを一杯と、ゴキゲンである。ちぇっ、いいなあ、スイスかあ。こちとら、晩ごはん何にしようかと考えながら、アイロンかけしてるというのにサ。

チッペンデールズを観たと話すと、彼女は一段と熱の入った声で、今年になって、またニューヨークへ行ったときに、あれを観たという。

「やっぱり本場のチッペンデールは違うわよ。客席でお札をひらひらさせると、ステージから降りてきて、キスしてくれるの」
「ふーん」
「あたしもキスしてもらっちゃった。あっちの女の子の声援って、そりゃあすごいのよ」
「ふーん」

彼女が盛り上がれば盛り上がるほど、わたしは冷めていった。だって、わたしは再びお金を払ってあれを観ようという気には、ならないもん。
まあ、話の種に一度見れば充分。

それからしばらくして、通りでばったり、ドロシーに会った。
「ギャリーのTバックはどう? セクシー?」
と聞くと、そうじゃないのよ、と、くっくっと笑う。

イタズラ好きのドロシーは一計を案じて、あの日、パッケージを破ってTバックをくしゃくしゃにして、夫のギャリーに見せたのだ。

「ホラッ、見て! これ、チッペンデールがつけていたの。バッと取って客席に投げたんだけど、そりゃもう、奪い合いで大変だったのよォ」
といって、それをギャリーの顔にペタッ。

ぎゃーっ、やめてくれぇー!!!
と逃げ回る彼を追いかけて行って、ドロシーは、Tバックで彼の顔を、ゴシゴシこすりまわしたのだそうな。
いやはや、イギリスの空はきょうも平和です。


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