ハグ (1)

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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ハグ (1)


となりの町のヒロミさんちに遊びに行った。
お茶を淹れながら、彼女が口をとんがらせていう。

「テリーのお母さんが来るのはええねんけど、あの挨拶、もう、見てられへん。あれはどう見ても、親子の挨拶とちゃう。恋人やわ。もう、シナをつくって息子に抱きつくねんよ。そりゃ、お母さん、あたしにも
キスするけど、そんなんとゼンゼンちゃうもん」

テリーはヒロミさんのご主人。ご主人のお母さんがときどき訪ねてきて、まず挨拶のシーンで、母と息子が、まるでロメオとジュリエットのように抱きあうというのである。

イギリスでは、肉親や親戚縁者が会ったとき、ハグして(抱いて)、頬にキスをする。キスといっても、頬と頬をくっつけて口でチュッと小さな音をたてるだけで、実際に唇を相手の頬につけることはない。

イギリスに来てまもない頃、わたしはそれを知らずに、バカ正直に相手の頬へ軽く唇をつけてしまった。そして、体を離したときに、相手の頬にうっすら口紅がついているのを発見して、ぎょっ。

うわー、すんません、すんませんと、あわてて指でゴシゴシとぬぐうという失態を演じた。相手が男性だったからニッコリしてくれたが、これが女性だったら、いやな顔をされるかもしれない。

ヒロミさんの姑の話を聞いて、わたしは先日の隣家の光景を思い出した。わが家の二階の窓から、おとなりの裏庭が見える。そのとき、奥さんのリンダが庭で洗濯物を干していた。

しばらくして、キャッキャッという声が聞えたので、なんだろうと見ると、洗濯物を干している小柄なリンダを、背後から息子がかぶさるように抱きかかえて、ふたりでふざけて遊んでいるのである。

息子は、大学を出て就職したばかり。その大きな息子と母親が、まるで恋人同士のようにイチャイチャしているのだ。

日本ではありえないこういった光景に遭遇して、わたしは鼻白んだ。(しかし、思いなおして) ……でも、ま、ええやん、べつに。母子が仲良しなんやし、結構なこっちゃ。

――おっと、だからといって、ははあ、イギリスにはマザコンが多いのだなと、早合点してもらっては困る。

これは、マザコンとは関係ない。
日本では、息子が母親とスキンシップの関係を保つのは、幼児期からせいぜい小学生ぐらいだろう。ところがこの国では、幼児期からのスキンシップが一生つづくのだ。


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わたしには子供がいないし、幼児を持つイギリス人の家庭をのぞき見る機会も少ない。しかし、わが家は小学校のまん前にあるので、登校下校の子供たちのようすを垣間見ることはできる。

先日も、下校の時刻に、ちょっといい光景に出会った。おそらくこの近所の子なのだろうが、校門から出てきた小学五、六年の男の子をめがけて、四歳ぐらいの女の子が突進していった。男の子はその女の子を抱き上げ、そのまま抱きかかえて歩きだした。

子供が子供を抱いているので、危なっかしく感じるが、いつもそうしているのだろう、慣れた調子で歩いて行く。

迎えに来た、小っちゃな妹を抱いて帰るお兄ちゃん。その、とろけるような仲良しぶりに見とれて、わたしは見えなくなるまで、ふたりの姿を見送った。

また、ある日のこと。
午後三時過ぎ、下校する子供たちを、なんとなく二階の窓からながめていたら、幼稚園児らしい女の子が転んだ。

わたしは外に飛び出して助け起こそうかとも思ったが、その子は泣きもせず自力で起き上がろうとするので、そのまま様子を見ていた。

すると、同い年くらいの女の子が駆け寄って来て、大丈夫? といったしぐさで転んだ女の子の顔をのぞきこんだ。と、ここまでは、日本の子供でもおなじようにするだろう。

ところがそのあと――
女の子は、転んだ子をハグして、頬にキスをしたのである。

ああ、これなんだ、日本と西洋の違いは。
日本でキスをするのは、恋愛関係にある男女か、親と幼児か、それくらいだろう。

ところが西洋では、子供の年齢に関係なく、家族でキスをする(もちろんこういった挨拶のキスは、頬に軽く唇をつけるだけ)。

「行ってきます」のキス、「ただいまい」のキス、「おやすみなさい」のキス、「ありがとう」のキス。

イギリスの親は、毎日毎日、子供を抱いてキスをする。そして、夫婦でもそうする。親がそうするから、子も、そうするものだと思って育つ。

だから、小さいころから抱きあってキスすることが、日常の習慣として身についている。そして、その習慣は成人しても変わらない。成人した息子は、母親にとっては逞しくいとしい男(ひと)と映るだろう。

ゆえに、母と息子が恋人のように抱きあうという光景が、くり広げられることになる。

わが家では、朝は「おはよう」、出かけるときは「行ってきます」、そして帰宅したら「ただいま」のそれぞれの挨拶に、抱きあってキスをする。これが、日本人であるわたしには、ちょっとうっとおしい。

だって、いちいち、めんどくさいんだもーん。最初は、まあそんなものかと思っていたが、結婚して数年もすれば、もう、めんどくさいのが先に来る。

やはりこれは、子供の頃から訓練していないからだろう。つまり、年季が足らんというこっちゃ。毎日毎日、毎回毎回、なーんでいちいち古亭主と抱きあわにゃならんのだ(若い恋人ならうれしいぞ)。

わたしは今では「ただいま」のキスは、ニ回に一回はパスする。そして、あとはほとんど、義務としてやっている(おーっと、これ、うちのダーリンには内緒でっせ)。


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