入浴法 (2)

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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入浴法 (2)

【イギリス式入浴法 (2)】

いったい、イギリスの給湯システムはどうなっておるのだっ。
どうやって風呂に入れというのだっ。

アランが給湯器の説明をしてくれたとき、彼の長い鼻毛や耳毛ばかりに感心してないで、もっとちゃんと聞いておくんだった。

わたしは、階下(した)におりて、ダイニングルームに行った。たしか、ここに給湯器があるはずだ。部屋の一角に小さなドアがあって、それを開けると、なんじゃ、こりゃ。

なんだか知らんが、モコモコと着ぐるみをまとったダルマが、鎮座してござる。そのダルマから、銅のパイプが配管されているから、ははあ、これが湯を溜めるタンクだな。

着ぐるみだと思ったのは、断熱材のキルティングで、それをめくると直径約五、六十センチ、高さ一メートルくらいの銅のシリンダーが見えた。そして、シリンダーの横からコードが出て、電源につながっている。

ふーむ、なんとなく理屈がわかってきたぞ。このシリンダーは、巨大な湯沸しポットなのだ。ドアの横にあるスイッチを押すと、シリンンダーに水が溜まって、内臓されているヒーターが作動する。そして、一定の温度になったら、サーモスタットが働いて、温度をコントロールする。

このタンクの湯を全部使ってしまったら、自動的にまた給水してヒーターが作動するが、湯が沸くまで二、三十分待たねばならない。このタンクの大きさから察するに、湯の容量は、あの大きなバスタブに底からせいぜい二、三十センチだろう。

それに、この湯は台所にも配管されているので、流しでの洗い物や洗濯機(イギリスの洗濯機は、台所に設置されている)で湯を消費したら、それだけ風呂に行く分は少なくなるということだ。

いつまでも湯が出てくる日本の瞬間湯沸機とは、まったく違うシステム。つまり、西洋風呂で首までつかろうなどと考えることが、そもそものまちがいなのだ。

空しい夢を追い求めていたと知って、入浴につかのまの悦楽を求めることはしぶしぶあきらめた。

ふーむ、それにしてもあんな少ない湯で、イギリス人はどうやって入浴しているんだろう。わたしは改めて浴室をながめた。そしてふたつのものを発見した――イギリスの浴室でよく見かけるが、日本の風呂場には絶対にないもの。

ひとつは、床に敷きつめたカーペット。浴室にカーペットを敷くなどという、気狂いじみた発想は、浴槽のなかで体を洗っても、湯は絶対外に出ないという大前提があって、はじめて可能なものだ。そのためには、やはり湯は底から二、三十センチにとどめねばなるまい。

そしてもうひとつは、浴室のなかに暖房設備があること。アランの家では、壁に電気ストーブがとりつけてあったし、わたしがホームステイしていた家では、セントラル・ヒーティングのラジエーターがあった。

これらのことから察するに、彼らがへその下まで漬かるぐらいの、わずかな湯で入浴することに間違いない。暖房は裸の上半身を暖めるためだ。

つまり、昔、日本人が夏に盥(たらい)で行水した、あれがイギリス人にとっての、入浴ということになる。


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イギリス人と結婚して二十年になるというS子さんに会ったときに、念のために、映画に出てくるあの《ウッフーン金髪美女》のことを聞いてみた。すると彼女は、キッパリといった。

「ああ、あの泡のお風呂ね。あんなのウソッ(キッパリ)。あれはあなた、撮影用ですよ、撮影用。イギリス人は、バスタブに三分の一しかお湯を入れませんっ(キッパリ)。

わたしは日本人だから半分入れますけどね。でも、タンクのお湯を全部使ったといって、主人がいつも文句をいうの」

わたしは、面白いことに気がついた。全身を湯につけるか、それとも下半身だけをつけるかで、入浴に対するコンセプトが、こうも違ってくる。

日本の典型的な入浴図、頭にタオルをのっけて浪花節のひとつも唸ろうかという、あれは首まで湯につかってはじめて出てくるものだ。

日本人なら誰しも、湯につかるとリラックスして優しい気持になり、陶然とする。わたしたちは日常生活の中で、このつかの間のささやかな幸福を享受する。

ところが、西洋のへそから下の湯では、鼻歌は出てこない。あくまでも事務的に、そそくさと体を洗うしかないのだ。

だからイギリス人の入浴は、十分とかからない。彼らが、浴槽のとなりにいきなり便器を置いて平気なのは、どちらもそそくさと用を足すところだからである。

そもそも、湯という言葉に対する思い入れが違う。日本語の「湯」は、茶の湯から温泉まで、多彩な概念を含んでいるが、英語には湯に相当する単語がない。だから「熱い水」、ホットウォーターと表現する。

「いいお湯かげん」などという素敵な言葉は、英語のボキャブラリーには存在しない。お気の毒に、西洋人は湯の愉(たの)しみをご存知ないのだ。

日本人とイギリス人の入浴は、湯の量だけでなく、温度も違う。彼らは猫舌であるが、また猫肌(?)でもある。おそらく日本の銭湯の湯は、イギリス人にとっては熱すぎるだろう。

ぬるい湯だと、水を多く足すので、湯は少なくてすむ。したがって、タンクがすぐに空にはならない。

ところが日本人は、シャワーでも風呂でも大量の熱い湯を使うので、ホームステイの家庭では、日本人が風呂に入ったあとは、家族が使う湯が残っていないという苦情を、よく聞く。


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イギリスを旅行するとき、ホテルではこういった心配はないが、一般家庭やB&B(朝食付き民宿)に泊まったときには、勢いよく湯を出していると、突然の《本日の給湯業務終了》に遭遇するかもしれない。

そこであわてないためにも、湯は浴槽に半分と心得ておくべし。でも、こんな少ない湯では、どうも風呂に入った気がしない、どうもぬくもった気がしないという方のために、日本人のための洋式風呂の正しい入り方を、お教えしましょう。

まず、タオルや石鹸を用意するのはもちろんだが、忘れてならないのは雑誌なり漫画なり、しばらくのあいだ暇をつぶせるものを用意することである。

何のためにそんなものを? 
まあ、黙ってお聴きなさいな。

冬であれば浴室に暖房を入れる。それから湯を出して、それが確かに湯であることを確認して、なおかつ正しく熱いことを認めた上で、水を出す。

カランの近くとバスタブの先の方では、温度がかなり違うので、よくかきまぜること。四十二度くらいが適温というから、やたら熱くする必要はない。

足拭き用のマットなり、タオルを、バスタブの前に敷いて、風呂に入る。足を伸ばしてすわって、湯がへそのあたりにきたら止める。そのまま下半身だけを浸して、じっと十五分間待つのである。上半身が寒ければ、肩にバスタオルをかけるとよい。

さて、ここで、先ほどの暇つぶしの出番である。十五分間ぼうーっと待つのは、《中国四千年悠久の時が流れる……》くらい長く感じるが、本でも読んでいればあっという間である。

そして十五分たったとき、あなたは思いもよらぬ体の変化に驚くだろう。上半身には、胸にも背中にもべっとりと汗が吹き出て、その暑いこと、まるでフェーン現象に見舞われた日本の夏のごとし。

あなたがいるのは、もはや涼しいイギリスではなく、正しく暑い日本の夏、甲子園の夏、金鳥の夏である。そして胸の谷間を、たらたらと玉の汗が流れ落ちる。

いえいえ、あたしゃホラを吹くのは好きだが、これはホントの話です。この汗が毛穴から老廃物を押し流してくれるから、あとは軽く流す程度に、さっと体を洗えばいい。この方法だと、少ない湯でも入浴後ぽかぽかと暖かいので、ぬくもったという気がする。

わたしたち日本人にとっては、なんとも味気ない風呂だが、これは、腰湯あるいは座浴という入浴法で、心臓に負担をかけないので、健康にはとても良いそうだ。

そういえば、わたしは腰湯を使うようになって以来、風呂で立ちくらみがすることがなくなったし、熱い湯に入って、かえって疲労することもなくなった。どうぞ、一度おためしあれ。

とはいうものの――
ああーっ、やっぱり日本のお風呂に入りたいよう。首までつかりたいよう。温泉に入りたいよう、ううう……。だって、日本人だもん。

   
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