ポルノグラフィ

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

profile-01.jpg

Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

運営サイト

ブログもアップしています。
イギリス生活よもやま話【ブログ】

1日1回のいいこと。クイズに答えてクリック募金しませんか? あなたには、一切お金はかかりません。

Sponsored Link

ポルノグラフィ

【偉大なるネゴシエーター】
わたしの友達は、なぜか年下の女性が多い。しかも、そのうちの何人かは三十前後、わたしの娘であってもおかしくない年齢である。

そんなひとりに、スチュワーデスがいる。おっと、このごろはスチュワーデスとはいわずに、キャビン・アテンダントとかいうんだっけ? 

ま、とにかく、そのYちゃんが、職業柄いろいろと面白い航空業界裏話を聞かせてくれるのだが、こっちが「ひゃあ、それ書かせて、書かせて」と飛びつくネタにかぎって、「ひゃあ、やめて、やめて、公開しち
ゃダメ〜」とクレームがつくのだ。

そこで今回は、数々の裏話のうちで、これは大丈夫だろうと思えるものを、ご披露しちゃいます。彼女の友達の友達、関空の某外資系航空会社の男性社員から聞いた、お話である。

それは、ある乗客のスーツケースが行方不明になったことから始まった。後日、無事に見つかったので、その中年ビジネスマンに連絡をとることになった。のは良いのだが、これがなんと、税関から……。

そう、そのお客様の荷物の中には、ジャーン、「有害図書」が入っていたのである。有害図書とは、いわずと知れた《無修正エッチ雑誌》である。で、その男性社員が税関に呼び出されて、お客様に電話することになった。

「あのー、実はですね、お客様のお荷物について、税関より指導がありまして……。何の事かおわかりかと思いますが」
「いや? わかりませんが」
「……実は、国内持ち込みが禁じられている有害図書が、含まれておりましたので。つきましては、こちらで処分させて頂いてよろしいでしょうか」

すると受話器の向こうから 必死の叫びが!
「ダッ、ダメだッ!」
「そういわれましてもですねえ……」

規則でございますから、いや、そこをなんとか、そういわれましても、いや、処分は困る、しかし、当方といたしましてもなんたらかんたら、うんぬんかんぬん――

と、税関係員も対応に加わっての粘り強い交渉の結果、なーんと「廃棄」ではなく、「出頭して自ら修正する」ことになったのである。

「だんだんと、男性が軟弱化していると言われて久しい日本。こんなにも気骨のある日本男子がいたなんて!」 と、Yちゃんはひどく感心するが、そこに感心するかぁ?

さて、その中年ビジネスマンは、空港税関事務所に出頭した。そして航空会社スタッフと税関職員が見守る中、彼はひとコマひとコマ、懇切丁寧な税関係員の指導に従って、「ピーッ!」な部分を塗り潰していったのである。

しかし、どうしても諦めがつかない中年男、係員の目を盗んでは、ページを飛ばそうと試み、そのたびに「こらこら」と指導が入った。まさに、最後の最後まで、不屈の闘志を見せる猛者であったそうな。

「そういえば小学生の頃、よく先生から『粘り強くやりぬく子になれ』と言われたけど、なるほど、こういう事だったのね、と納得するお話でした」

と、メールの文面は大ボケで結ばれていたので、「おいおい、Yちゃん、ちゃいまんがな、それは」と、パソコンに向かって、律儀にツッコミを入れるわたくしでありました。


line-450x16.gif

この話を聞いて、なつかしく思い出したことがある。
わたしは昔、京都で着物に絵を描く仕事をしていたことがある。あおばな(友禅染の下絵描き染料)で描かれた下絵の上を、特殊な染料で塗っていく仕事は、絵の好きなわたしにとって、楽しいものだった。

その工房には、同僚が十人くらいいて、歳は二十代から三十代、そのうちの半分が美大出身ということもあって、きわめて自由な雰囲気の職場だった。そして毎日、音楽を聴いたりしながら、各自が机の上に反物を広げて、花などを描いていた。

そんなある日、おしゃべりしながら筆を動かせていると、何の話からか、ポルノの話になった。すると、アトリエの隅っこで下絵描きを専門にやっていた、Sさんがポソッといった。

「ぼくなあ、スエーデンからポルノを取り寄せたことがあンねん」

ええーっ? みんなが驚いて、振り向いた。いや、驚いたのは「ええーっ、あのSさんがそういうことするのぉ?」という驚きである。

ほら、いるでしょう、絶対にそういうことしないと百パーセント確信できるタイプ。静かでおとなしくて、優しくて人畜無害、顔だって色白で、お雛様の五人囃しのメンバーに抜擢して、緋毛氈の上に飾っておきたいくらい。

そんなSさんは、脂ぎった中年スケベおやじからは最長不倒距離にあるタイプなのにィ。だーがら、やっぱ、オドゴって、わがんねーもんだな。

当時、彼はまだ二十二、三だったと思うが、すでに父ちゃんで、しかもセミプロのミュージシャンで、いったい本職は何なんだ? という謎に満ちた人物でもあった。

わたしたちは動揺を隠しながら、Sさんの話に聞き入った。
スエーデンにポルノ写真集を注文して、忘れたころに、神戸の税関から電話があったという。神戸ということは、その有害図書は船便で届いたらしい。

「出頭せよ」ということで、Sさんは京都から神戸へ出向いた。税関へ行くと係員は、二者択一を迫った。そのポルノグラフィをそこで廃棄処分するか、または、今その場で自らビリビリに破って、持ち帰るか。

Sさんの頭の中に、パッと明るい電球がともった。
「破って、あとでテープでつなぎ合わせる。これや!」

できるだけ大きく破ろうとするSさん、「あー、これこれ」と指導を入れる係員との攻防戦の果てに、一枚が三センチ四方くらいの紙くずの山を、後生大事に持ち帰った。

さてさて、この日から始まった、無修正ポルノ・ジグソーパズル闘魂編。子供が寝静まった夜ごと、ジグソーパズルの鬼と化したSさんは、挑み続けた。ここでも、男どもがある種の執着に対して持つ、不屈の粘り強さが、遺憾なく発揮された。

そうしてようやく完成したのが、全ページズタズタ割れ目入り、全面セロハンテープゴテゴテの、見るも無残な無修正ポルノであった。


line-450x16.gif

アトリエの全員一致のリクエストにより、Sさんは次の日、そのズタ貼りポルノを職場に持ってきた。待ちに待った昼休み、男の子も女の子も、皆で集まって、明るく健全なポルノ観賞会と相なった。

これは、写真集といえば確かにそうではあるが、装丁はチャチなもので、中央をホッチキスでとめた薄っぺらな小冊子だった。それがセロハンテープでゴテゴテなので、ページがボコボコと波打っている。

無修正ポルノを見た感想は、ひと言でいうと「うへー」である。女は男とちがって、視覚から入る刺激には疎いので、ああいうものを見て興奮することはなく、気持ち悪いだけ。

さらに悪いことに、そこには、大柄な白人金髪女が、素っ裸でトイレで脱糞している写真まで載っていた。んもー、こんなもん見て、男って何がうれしいんだろ? アホちゃうか。

と、思いつつも、その日わたしはきっちり、そのズタ貼りポルノを借りて帰った。もちろん、愛するダーリン(当時の夫は、四歳年下の日本人)に見せるためである。

「ほれっ、スエーデンの本場のポルノやで。見たことないやろ? あんたのために特別に頼んで、借りてきてあげたんやで」(こんなときとばかりに恩を売る、売る)
「おおっ、さすがはうちのヨメはん、ようでけたヨメや」
(注・ 関西では妻のことを「嫁はん」といいます)

かくして、食後は、無修正ポルノで健全な一家団欒となったのだが、いやあ、こんなこと、子供がいないからできるのだろうね。

それにしても、母ちゃんが職場からポルノを持ち帰って、得意げに父ちゃんに渡す図なんて、子供でなくても退(ひ)いちゃうよ、ったく。いったいどんな夫婦やねん。

このズタ貼りポルノは、かれこれ25年くらい前の話である。いきなり廃棄処分にせずに、出頭させて選択の余地をあたえるということは、あの頃のほうが、今よりお上にも温情があったのだろうか。

破るだけなら、テープで貼り付ければ一応は見られるわけだ。ところが修正でスミを入れると、あとで消そうとしてゴシゴシやっても、紙のほうが破れてしまうだろう。

それにしても、あの中年ビジネスマンは、「粘り強くやりぬく子」になって交渉したからこそ、なんとか廃棄処分はまぬがれ、しかも修正するときに、無修正のものを見ることができたのだ。

男性の皆様、この世はなにごとも不屈の精神が大事でございます。
あなたも偉大なるネゴシエーターをめざして、粘り強く頑張ろう! 
エイエイオー!

あーあ、平気でこういうことを書くから、「妙子さんは本当に女性ですか?」なんてメールを、男性からもらうんだよねえ。あたしってば、どうしてこうなんでしょ……。


 次のエッセイへ
 トップページへ
Sponsored Link

検索

カスタム検索

サブコンテンツ

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。