亭主族

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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亭主族

【いずこもおなじ亭主族 】

うううー、鬼の霍乱である。
鼻をぐずぐず鳴らしならがら、これを書いている。あまりにも鼻をかみすぎたために、鼻の下が赤くなってヒリヒリする。

風邪をひいたのは、本当に何年ぶり。四年前に乳ガンを宣告されて以来、あわてていろんな健康法をやりだしたので、それが功を奏したのか、かえって風邪をひかなくなった。それが自慢だったのに、くっ、くやしい〜っ。

久しぶりに寝込んだが、わが家の場合、平和に寝ていられることは、まずない。まあ、女というものはたいてい、ゆっくり寝てなんぞ、いられないものだ。特に、赤ちゃんのいるお母さんなんて、二十四時間営業だもんなあ。

しかし、うちの場合は、熟年の夫婦ふたりという暮らしである。それでも、たまに病気で臥せっていると、その静寂はみごとに破られる。

うちのオットットは、ほとんど寝込んだことのない男である。それはありがたいことで、感謝、感謝なのだが、ひとつ問題がある。そういう人は、病人の気持がわからない。

そして、オッチョコチョイで、気がきかないときている。いつも、あまりの気のきかなさに唖然とするのだが、これは男と女の違いもあるだろう。

風邪をひいた朝、起きぬけに、レムシップ(ホットドリンクタイプの風邪薬)を持ってきてくれるという。おっ、そりゃ、ありがたい。ベッドの中で待っていると、階段の下から声がした。

「マグがいいかい、それともティーカップ?」
あのなー、おっさん。そんなこたァ、どーでもええねん。
それよりも、返事をするために階下に聞こえるような大声を出すこと自体が、シンドイんだよ。そいうことが、ヤツにはゼンゼンわかっとらん。

風邪薬を飲んでしばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。当然オットットが出るだろうと思って、無視していたら、二度目のチャイムが鳴り、ドアをノックする音が聞こえた。

早く出てよぉ、うるさいなあと思っていたら、「タエコ〜」と地の底からうめくような声が聞こえた。

ん? あの声はどこから? ……あ、そうか、トイレか。ウンコしてるから、わたしに出てくれって言ってるんだ。んもー、こんなときにぃ!役立たず!

と、舌打ちしながら起き上がって、ガウンを着て、頭痛ガンガンの頭でよろよろしながら、玄関に出た。

ドアを開けて、ウワッ!

「ええーっ、あんたトイレじゃなかったの?」
「違うよ。玄関の横のパンジーの鉢を、チューリップの鉢と取り替えてたんだよ。そしたら、風でドアが閉まって」
「でも、タエコ〜って呼んだじゃない。あれはトイレじゃなかったの?」
「ここから呼んだんだよ」

うちのドアは、バタンと閉まると、勝手にカギがかかる。
「なんでスニブを上げておかないのよ。そうすれば、閉まってもカギはかからないでしょ」
「ちょっとの間だから、大丈夫だと思ったんだ」

これ以上追求すれば、言い訳の天才であるイギリス人のこと、ぐだぐだぐだぐだと、しょうもない御託をならべるに決まっている。だから、ここで会話を打ち切るしかない。

と、まあ、こういうことがしばしば繰り返されるので、おちおち寝てもいられないのだ。二階の寝室に戻って、ふたたびベッドに入ったものの、もう眠れない。せっかくうとうとしていたのにィ。

そうなんだ。これって、いつものパターンじゃないか。
おー、そうだ、そうだ、思い出したぞ、この前寝込んだときのこと。この前ったって、もう何年も前の話だけど。



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寒気はするわ、関節は痛いわで、その日の午後になって、わたしはベッドにもぐりこんだ。優しいオットットは、
「さ、きょうは寝てなさい。夕食は僕がつくってあげるからね、ダーリン」
といってベッドに腰かけ、わたしの額に手を当てた。

アイテテテッ! こらァ、その尻! どけろーっ!
人の足の上に座ってェ、もうッ! なァにがダーリンだ、ったく。
(ここでわたしの額に、ピッと、井桁の「怒り」マークが浮かぶ)

オットットはとても優しい男だけれど、こーゆーことで、その優しさを台無しにしてしまう。これも、いつものパターンである。

「じゃあ、夕食の買物に行ってくるからね」
と、いちいち言わんでもええことを、階下から叫ぶ。下に聞こえるように返事をする気力も、体力もないので、黙っていると、バッターンと大きな音をたてて玄関のドアを閉めて、出ていった。

このドアは、そうやって閉めると、自動的にロックされる。でもね、もう少し静かに閉めても、ちゃんとロックされるんだよ。病人のために静かにドアを閉めるという気配りが、どうしてできんのだ。ま、しかし、やれやれ、これでしばらくは安泰だ。

やっと、うとうとした頃、うるさいのが帰ってきた。
「たっだいまー!」

返事がないので、奴はもう一度叫ぶ。
「たっだいまー!」

あのなー、おっさん。階下のあんたに聞こえるような大声が、出せないんだってば。ちょっとは察しろよ、ったく。

それでも返事がないので、ドタドタと階段を上がってきた。
「なーんだ、起きてるじゃない。眠っているのかと思った」
(起こしたのは誰なんだッ。ここで、額の怒りマークが増殖して、ふたつになる)

オットットは、キッチンで夕食の準備に取りかかった。しばしの平和が続き、わたしは浅い眠りについた。

ピピピピピピピピピピピピーー!!

突然、けたたましいアラームの音。家じゅうに鳴り響く。
キッチンの前にあるこの火災報知器は、やけに敏感なので、火を使うときには、キッチンのドアを閉めなくてはならない。

それがわかっていながら、ヤツは閉めるのを忘れる。必ず忘れる。アラームを止めて、階段の下で「あー、びっくりした」と独り言をいっているのが聞こえた。(まったく、もうッ! 三つめの怒りマーク)

完全に眼が覚めたわたしが、本を読んでいると、二階にやってきた。
「少しは眠らないとだめだよ」
(あんな音で、いったいどうやって眠れるんだッ。怒りマーク四つ)

チーズおろし器はどこかと聞くので、その場所を説明すると、しばらくして、またやって来た。
「探したけど、ないよ」

はいはい、どうせそう来るだろうと思ってたよ。わたしはガウンを着て、階下におりる。これも、いつものパターンだ。

ほらあ、チーズおろし器は言った場所に、ちゃんとあるじゃないか。
「これは何よ、これはッ」
「あっ、そんなとこに隠してあったのかあ」
(隠してないわいッ。ちゃんと探さんかいッ。怒りマーク五つ)

さて、出来上がったのは三種類のチーズを使ったラザーニャという、おしゃれなイタリアン料理。いえね、いいッスよ、普段のときなら。でもね、あたしゃ、日本人なんです。

日本人が、風邪でくたばっているときに食べたい物といえば、もう、おかゆに梅干。これっきゃない。でも、そんな寝言をいっていては、ここでは暮らせない。

おまけに、この男、料理をつくってもらったら褒めないといけない。食べたくもない料理を、おいしい、おいしいと褒めるこの苦痛。

そういや、わたしの最初の亭主、彼は京都のど真ん中で生まれた京都人だが、料理をつくってくれると褒めるのを催促したし、褒めなければ機嫌が悪かった。

そういうところは、最初の亭主とそっくりだ。それに、人は善いけど気のきかないところは、わたしの父親そっくりである。

うーむむむ、亭主という人種はまったく、国籍に関係なく、どうしてこうなんだろう。その晩に熱が出たのは、風邪のせいばかりじゃないぞッ。


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