災害

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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災害

【犠牲者から盗る】

ここのところ、なんだかんだと忙しくて、新聞や本を読んだり、テレビを見る時間がない。それで、最近は朝、新聞にザッと眼を通して、自分の読みたい記事だけ切抜いて、それをためておいて週末にまとめて読むことにした。

日曜日になると、たまった切抜きと、分厚い英紙「サンデイ・タイムズ」と、紅茶を持ってサンルームに行く。やっと春らしくなった日曜の朝、ガラス越しの陽を浴びながら、ソファに寝そべってタイムズを読むのが、活字中毒のわたしのささやかな楽しみなのだ。

楽しみなのだけれど、ううーむむむ……。
「この世に神はおらんのかい。神サン、あんた何やっとんねん」とへたりこんでしまいそうなニュースに、朝のさわやか気分は、どこへやら。

いえね、スマトラ沖地震による災害のことなんです。2004年の暮れに、地震による津波で壊滅的被害を受けた、わずか三ヶ月後にまたもや地震が起きた。

地震が被災者に与える肉体的、精神的ダメージは日本でも変わりはない。それでも日本にはまだ救いがある。日本から遠く離れて、グローバルな眼を持つと、日本人の、他の民族から傑出した謹厳さ、実直さが見えてくる。

そこにわたしは精神の高みを感じ、それが救いとなる。そして、日本人として生まれことを、誇りに思う。

なーんて、いきなり、日の丸ニッポン愛国モードに突入だが、西側にいて災害のニュースに触れるたびに、わたしは愛国モードに、スイッチが入ってしまうんである。

どういうことかというと、たとえば、阪神大震災があった年の夏に、インド北部で、急行列車が停車中の列車に激突する大事故があった。

時速百キロで衝突した急行列車は、先頭の数両が大破し、約千五百人の乗客のうちの五百人が死亡するという、インド史上最悪の列車事故となった。

この列車に、たまたまわたしの夫の親戚の大学生が乗り合わせ、九死に一生を得た。足の怪我で片足切断も覚悟したが、かろうじてそれはまぬがれ、びっこをひきながらイギリスに帰ってきたとき、わたしたちは見舞いに行った。

彼の話によると、大事故発生から三時間たっても、政府からの救助活動はなかった。そして、やっとのことで軍隊が到着すると、兵士はトランプで遊んだり、死体から物を盗むのに忙しくて、なんの助けにもならなかった。

財布や貴金属を抜かれた犠牲者の死体は、ブルドーザーで山と積み上げられ、インドの照りつける太陽の下で、その悪臭は耐え難いものだったという。

こういうことを、わたしたち日本人がやるだろうか。
被災地で救助活動をするとき、まず犠牲者から強奪するなどということを、わたしたちは考えるだろうか。

災害時に犠牲者から略奪する行為を、英語でルーティング(looting)という。

阪神大震災のとき、日本ではこのルーティングがほとんどなかったことを、西側のマスコミは、驚きと賞賛をこめて報道していたが、こういう記事を読むとうんざりする。そんなこと、あたりまえじゃないか。日本人は、しないよ、そんなこと。

あのとき、わたしたちは何をしたか。
たくさんのボランティアの人々が、リュックを背負い、長い道のりを、額に汗して神戸まで歩いて、救援に行った。なんという国民性の違いだろう。


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スマトラ沖地震の被災地でも、日本では考えられないことが起こっていた。タイでは、親を失った子供が人身売買されていたことは、まだ記憶に新しい。

あの津波のとき、ちょうどわたしは日本に帰国していた。テレビでは常時、被災地のようすがニュースで流れていた。犠牲者の数はうなぎ登りに増え続ける一方で、毎日毎日、判で押したように、犠牲者の身元確認が遅れている、という報道が繰り返された。

なぜあんなにも、身元確認が遅れているのだろう。
レポーターは、気温が高いために遺体の腐敗が早くて、確認が困難だと言っていた。しかし、かなりの犠牲者のDNAを採集してはいるらしい。

その鑑定が遅れているのは、なぜ?
漠然とした疑問をいだいたまま、イギリスに帰ってきた。
そして、こちらの報道で、やっとその謎が解けた。

いくら遺体の腐敗が早かろうが、身に着けているものがそのままであれば、身元確認はもっとスムーズにいくはずだ。

たとえば、財布、アクセサリー、パスポートなど。財布の中には現金やカードだけでなく、名刺や家族の写真など、手ががりとなるものもあるだろう。アクセサリー類は、近しい人が見れば、その人がいつも身につけていたものと、判別がつくだろう。

ところが、駆けつけた救助隊員が、あるいはタイの制服を着た警官が、死者のポケットをまさぐり、財布を抜き出す。身に着けている貴金属を盗る。パスポートを盗む。これじゃ身元確認は、遅れてあたりまえ。

ルーティングと、高い気温で遺体の腐敗が早いこととで、遺体の身元確認が大幅に遅れたわけだが、それだけじゃない。

決め手となるDNA鑑定が、うまくいっていない。鑑定用のサンプルは、歯と骨から採取すべきなのに、タイ人は筋肉組織から採っていた。それでは正確を期することはできないのだ。

さらに、採取後、分析のためにサンプルが中国の北京に送られたが、その輸送方法がまたずさんで、サンプル同士が混入する恐れがあったという。「もう、あんたら何やってんの」状態である。


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なにしろ、警官や救助隊員が盗みを働く国である。タイでは、ルーティングを組織的にやっている連中がいる。暴力団だ。

タイ人や中国人で構成するマフィアが、大津波以来、犠牲者が泊まっていたホテルや別荘を強奪して回っていた。ターゲットは現金やポータブルの電気製品、そしてクレジットカードやパスポートである。

しかし、クレジットカードを盗んでも、アジア人が西欧の名前のカードを使うわけにはいかんだろう? いえいえ、そこはそれ、ちゃーんとそれ専用のコーカサス人(多くはロシア人)がいるのだそうな。

そしてパスポートも、これまたちゃーんと、偽造ドキュメントを売買する闇の組織がある。バンコクといえば、盗品や偽造ドキュメントのマーケットとして悪名高い都市だ。

さて、ここからさらに、別の問題が派生してくる。
バンコクでは、そうやって犠牲者から仕入れた偽パスポートを、「新しいのがぎょうさん入荷しましたでえ」と闇のルートで売り出す。

すると、こういうものを買うのは、不正入国しようという犯罪者、そしてテロリストだ。このパスポートを使って、善良な市民になりすましたテロリストが入国する、なんてことになったら、えらいこっちゃ。

というわけで、潜入を恐れる各国が展開したのが、「盗まれる前に盗んじゃおう」作戦。おっと、一応国家なんだから「盗む」という表現はマズイな。回収、そう、「回収」だ。

イスラエル政府は警官隊を、イスラエル人に人気のあるリゾートに派遣して、ホテルや別荘に残されたヘブライ語のパスポートを回収した。また、シンガポール政府は、内密に私服の兵隊を派遣して、回収している。当然、イギリスも警官隊を派遣した。

つまり、ルーティングという行為を、現地の警察、救助隊員、一般市民、暴力団、外国からの派遣隊がこぞってやっているわけだ。これじゃあ、身元確認ができることのほうが、むしろ奇跡といっていい。

さらにその一方で、奇妙な動きがある。
津波の被害がなかったパタヤにいたイギリス人数人が、プーケット島で被害に遭って行方不明になったかのような、偽装工作しているという情報があるのだ。

これは何を意味するのか。
おそらく、そのイギリス人は犯罪者で、盗んだ大金を持って高飛びし、パタヤに住んでいるのだろう。この津波を利用して自分のアイデンティティを消せば、偽のパスポートで、別人になりすまして本国へ帰れる、というわけだ。

欧米では、津波の直後から、犠牲者の家族から、生命保険を受け取るための申告が殺到した。そのために、世界の大手保険会社は、独自の調査員を派遣して行方不明者を探していた。アメリカからは、あの9月11日の同時多発テロ事件で遺体確認に活躍した会社が、タイ入りしていた。

しかし、大規模なルーティングとお粗末なDNA鑑定のせいで、外国人犠牲者の身元が判明することは、日に日に絶望的となっていった。

いやはや、あの被災地には、各国からの救援活動という善意と、はびこる悪が、混沌として渦巻いていたのである。

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