エジプトのミイラ

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

profile-01.jpg

Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

運営サイト

ブログもアップしています。
イギリス生活よもやま話【ブログ】

1日1回のいいこと。クイズに答えてクリック募金しませんか? あなたには、一切お金はかかりません。

Sponsored Link

エジプトのミイラ

【きょうの料理 「ミイラのエジプト風、臓物添え」】

前回、イギリスの英語学習書が面白いという話をしたが、ついでにもうひとつ。

オクスフォード大学出版局から出ている "OXFORD SUPPLEMENTARY SKILLS" というシリーズのリスニングテープにも、いくつか面白い話があったので、そのうちのひとつをご紹介しましょう。

これは、エジプト博物館のミイラ修復および学術調査に加わった、ある学者の談話である。1970年代からの、幾度かにわたるミイラの学術調査によって、古代エジプト人の容貌が、だんだん明らかになってきた。

まず体型であるが、平均身長は男女とも約160センチ。だが、現代人とくらべるとはるかにスリムで、もし身長がおなじだとすれば、彼らのほうが10〜15キロも軽かった。

平均寿命は、階級によって違う。平民は30〜35歳、貴族階級になると、50〜60歳まで伸びる。うーむ、これはなかなか象徴的である。世界の医療事情を見まわしてみると、貧富の差が寿命までも左右するのは、なにもこの時代だけではなさそうだ。

もちろん、なかには、当時としては驚異的な長寿者もあり、これまでに実際に調査された唯一のファラオであるラムセス二世は、享年90を越えていたという。

当然、年をとるにつれて病気が多発するが、うらやましいことに、古代エジプト人には、ガンと虫歯がない。これは質素な食事と、まだ砂糖がなかったためである。ところが、その粗末な食物には、別の問題があった。

パンをつくるために小麦を挽いて粉にするが、その際の石臼が、かなり原始的なものであったため(石臼そのものが、すでに原始的だと思うけど?)、微細な石のかけらがパンに混入し、それがサンドペーパーの役目をして、歯をガリガリと削ってしまった。

そのために、長年の咀嚼で歯の摩滅した爺さん婆さんは、流動食を余儀なくされたと思われる。90を超える長寿をまっとうしたラムセス爺さんのあごには、そのガリガリが原因と見られる膿瘍があり、ひいては、それが死を招いたようだ。

内臓には寄生虫がウヨウヨ、貴族階級でもウヨウヨで、当時の公衆衛生の水準の低さを、物語っている。古代エジプト人には、喫煙の習慣がなかったものの、ミイラの多くが肺の障害をかかえている。

これは現代でも、鉱山や砕石現場で働く人々に見られるのと同種のもので、砂漠という生活環境がもたらした疾病である。

ところで、「マミーダスト」なる言葉を、耳にされたことがおありだろうか。わたしたち日本人には、あまりなじみのないものだが、マミーは英語でミイラ、ダストはゴミとかホコリという意味からもわかるように、これは、干からびたミイラから取った粉末である。

このマミーダストが、19世紀ぐらいまでエジプトやヨーロッパで、怪しげな病気治療や呪術に欠かせない材料として、飛ぶように売れていたという。そしてあまりの需要の多さに、偽のミイラを製造する業者まで出現した。

これを見かねたエジプト政府当局、文化財保護のために取締りを強化したが、効験むなしく、その後は闇で取引されたという。


line-450x16.gif

さて、おたちあい。
ここでちょっと気になるのが、古代エジプト人がどうやってミイラをつくったかである。

そこで、ただ説明するのも芸がないので、エジプトのミイラの製法を、ブラックユーモアで、「NHKきょうの料理」ふうにやってみたいと思うが、いかがでありましょう。


ポンポコポコポコ、ポンポンポン、ポンポコポコポコ、ポンポンポン……(おなじみのテーマソングが流れてくる)

えー、それではきょうの料理、「ミイラのエジプト風、臓物添え」の作り方をご紹介しましょう。メモのご用意はよろしいでしょうか。ではまず、材料からまいります。


■材料

死体(新鮮なもの)………………………………一体
ナトロン(天然炭酸ソーダ)または塩…………沢山
椰子(ヤシ)酒……………………………………適当
包帯………………………………………………二、三百メートル
綿くず、綿布……………………………………適当
おがくず……………………………………………適当
干し草………………………………………………適当
動物の骨、または胡椒の実………………………少々
液体ゴム……………………………………………沢山
芳香剤………………………………………………少々
杉油…………………………………………………少々

■用具

青銅の棒(先をフック形に曲げたもの)………一個
鋭く研いだエチオピア石(黒曜石)……………一個
カノポス壷(臓物を入れる壷)…………………四個
サーコファガズ(ミイラを入れる棺桶)…………一個

(分量がずいぶんとええかげんじゃないか、という指摘もあるが、無視して始める)



まず、材料の死体でございますが、これはやはりなんといっても、新鮮なものがよろしゅうございますね。脳死や心臓死がどーのそーのと、ややこしいことをいっていないで、くたばったら、すぐにとりかかるのがよろしいかと存じます。

香り高いミイラを作ります上で一番大切なことは、防腐処置でございます。で、この防腐処理でございますが、お値段によって松、竹、梅と三段階ございます。

なんですか、日本でもお葬式の祭壇飾りに、いろいろとランクがあるそうでございますが、ホホホ、紀元前1500年のエジプトでも、大差ございませんのよ。

しょせん、世の中お金でございますからねえ。きょうは幸い、素封家の生きのいい死体が手に入りましたので、一番お値段の張る「松」でいきたいと存じます。

それではさっそく、防腐処置からご覧いただきましょう。これは、体から内臓を抜き取りまして、そのあとに詰め物をして、脱水処理をすることでございます。

えー、まず、脳を取り出しますが、ちょっとこれをご覧くださいませ。これは青銅の棒で、ま、鉄でもよろしいんですけれど、先が曲がってフックのようになっております。

このフックに脳味噌をひっかけて、ズルズルと引き出すわけでございますね。これは大変便利な道具でございますので、ぜひご家庭に一本、常備なさればよろしいかと存じます。


line-450x16.gif

それでは、まず脳味噌を出してみましょう。この棒をグッと鼻の穴に、こっ、このようにグッと……かなり奥まで入れてくださいませね。でないと、脳までとどきませんので。

えー、これくらい入りますとですね、だいたい、脳に達しているはずでございます。フックに脳味噌をひっかけるようにして、鼻の穴からゆっくりと、引きずり出します。あー、ほらほら、ズルズルと出てきますね。

これを、このようにですね、何度か繰り返して、脳をきれいに掻き出すわけでございます。あらら……(ピッと小鼻が破れる)、まあ、なにしろ鼻は軟骨でできておりますので、どうしてもこのように、あらっ、またやっちゃった。

えー、どうしてもですね、このように鼻の形がくずれて、あらら……。
えー、このように、ぐちゃぐちゃになってしまいます。で、こういった場合には、後で、こちらにございます動物の小さな骨を使って、整形しておきます。

あ、なんでも結構でございますよ。ゆうべのおかずの鶏の骨でもなんでも。もし骨がございません場合は、代わりに胡椒の実を詰めていただいても、よろしゅうございますね。

それから、きょうの死体は男性でございますからよろしいんですけれど、女性の場合ですと、子宮も取り出していただきます。さきほどの脳味噌を取り出す要領で、この棒を膣に突っ込んで掻き出せば、これはもう簡単でございますわね。

次に、石のメスを使って、左の脇腹を切り開きます。これはエチオピア石と申しまして、黒曜石の一種でございますが、このように、鋭く研いでおくことが、肝要でございますね。

内臓を取り出しますので、ここはひとつ大胆にピーッと、このようにですね、大きく切り開いていただきます。そして、手を突っ込んで内臓を取り出しますが、やみくもになんでも取り出せばいいいってもんじゃ、ございません。

臓物はあとでカノポス壷に入れて、ミイラのつけあわせにいたしますので、丁寧に扱ってくださいませね。

さてこの四つのカノポス壷でございますが、ごらんのように、それぞれの壷には、飾りがついております。人間の飾りのついた壷には胃と大腸、そして、ヒヒの頭の壷には小腸。

よろしゅうございますか、お間違えのないように。それから、犬の頭の壷には肺と心臓、そして、鷹の頭の壷には、肝臓と胆嚢を入れていただきます。

さて、このようにすっかり内臓を取り出しましたら、中を椰子酒で洗います。……さ、これくらいでよろしいでしょう。そういたしますと、このはらわたを抜いたボディを、ナトロンに漬けて脱水いたします。

あたくしはいつも、ナトロンの水溶液を使っておりますが、粉末にまぶしていただいてもよろしゅうございますのよ。これは好き好きで、どちらでも。

このナトロンと申しますのはいわゆる炭酸ソーダでございまして、エジプトでは、ナイル川から天然のものが採れますの。でも日本でしたら、普通のお塩で代用なさっても、結構でございますわね。

いえ、エジプトでも、ずいぶん沢山の方がお塩でなさいますのよ。お手軽ですものね。さて、そういたしますと、これを七十日間漬けておきます。


line-450x16.gif

(画面は変わって、ナトロンに漬けた死体が、調理台に乗っている)

さ、それではここに、七十日間ナトロンに漬けたものを用意いたしました。そういたしますと、この脱水処理したボディを乾燥させます。

これは戸外でも、屋内でも、どちらでも結構でございます。期間はまあ、適当でよろしゅうございますが、しっかり乾燥しているほうが、後の保存がよろしいので、充分に乾燥させてくださいませね。

(ふたたび画面が変わって、乾燥した後のボディが、調理台に乗っている)

時間がございませんのでね、前もって乾燥しておいたボディを使わせていただきますわね。さ、よくご覧ください。このように、干からびて縮まるくらいに、しっかりと乾燥させていただきます。これが、美しく保存するための、一番の秘訣でございます。

では、まずお腹の空洞に、詰め物をしていきます。このように綿くずと綿布、それに、おがくずと干し草もいっしょに詰めていきます。

で、このときにですね、ナトロンの粉をいっしょに入れるのを、お忘れになりませんように。もちろん、ナトロンの代わりにお塩でも結構でございますよ。

さ、こんなものでよろしいでしょう。このように詰め終わりましたら、傷口を縫っておきます。それからボディ全体に、まんべんなく杉油を塗ります。杉油には香料が入っておりますので、ああ、なんとも良い香りがいたしますね。

さて、このように全体に塗り終わりましたら、いよいよ包帯を巻きます。包帯は上等の綿を使ってくださいませね。そして、前もって、液体ゴムを、充分に沁み込ませておいていただきます。

これを、頭から足のほうへ、ぐるぐると巻いていきます。
はい、手もぐるぐるぐるぐる、足もぐるぐるぐるぐる、
あなたもぐるぐる、わたしもぐるぐる、
みんなでぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる……。

はい、これでよろしいでしょう。そういたしますと、これをサーコファガスに入れます。そして、内臓の入った四つのカノポス壷を、このように添えまして、はい、「ミイラのエジプト風、臓物添え」の出来上がり。

いかがでしたでしょうか。
明日の死体料理は、「ツァンツアのヒバロ風」をご紹介します。これは、アマゾンの首狩り族として有名なヒバロ族に伝わります、ツァンツア(干し首)を使いました伝統料理でございます。

ではまた、明日をお楽しみに。さようなら。
ポンポコポコポコ、ポンポンポン、ポンポコポコポコ、ポンポンポン……。


 次のエッセイへ
 トップページへ
Sponsored Link
<<英語学習書|災害>>

検索

カスタム検索

サブコンテンツ

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。