挨拶

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

profile-01.jpg

Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

運営サイト

ブログもアップしています。
イギリス生活よもやま話【ブログ】

1日1回のいいこと。クイズに答えてクリック募金しませんか? あなたには、一切お金はかかりません。

Sponsored Link

挨拶

【ああ、ややこしい 】

イギリス暮らしも十年を超えたというのに、わたしはいまだに、苦手なものがたくさんある。そのひとつが、挨拶だ。誰にどの程度の親しみを示せばいいのか、よくわからないからだ。

あーら、そんなの簡単、とにかく初対面の人には、"How do you do?"(はじめまして)といえばそれでいいじゃない、ですって? 

いやいや、あんさん、そんな単純なもんちゃいまっせえ。
わたしが体験した屈辱の歴史を、まあ、聞いてくださいな。

英会話テキストの初(しょ)っぱな、挨拶編パート1に必ず出てくる、この"How do you do?"、いやあ、一生懸命おぼえましたよね。わたしも、はじめてイギリスに渡ったときは、さかんにこれを連発したものである。

ところが驚いたことに、当地ではほとんど使わない。むしろ、アメリカの方が使うんじゃないかしら。アメリカ映画では、けっこう使っているみたいだし。

イギリスでのホームステイで、はじめてホストファミリーに会ったとき、やっぱり "How do you do?" って思うでしょう、日本人としては。ところが、言わんのよねえ、これを。

でも、こっちにしてみれば、初対面の挨拶はそれだと思い込んでいるから、使ってしまう。すると、イギリス人は、特に若い人は、きまり悪そうに黙っているだけで、そうはいわない。

変だな、おかしいなと思って、よくよくイギリス人を観察すると、やっぱりいわない。実際には、イギリスの日常生活の中で使うことはほとんどないとわかって、愕然とした。

では、イギリスでの初対面の挨拶はというと、まず、"Hello"(ハロウ)。それに加えて、「会えてうれしい」という意味の "Nice to meet you" が、最も一般的である。

ま、言葉はそれでいいとしても、問題は付随するジェスチャーである。いろいろとランクがあるから、ややこしい。
たとえば――

1."Hello"といって、握手はしない。
2."Hello"といって握手をし、"Nice to meet you"という。
3."How do you do?"といって握手をし、"Nice to meet you"という。
4."Hello"といってガバッと抱きつき、頬にキスをする。

初対面では、1と2が一般的のようだが、あらたまった席で紹介された場合などは3、身内や親戚縁者、親しい友達などは4、になる。


line-450x16.gif


さて、握手であるが、これがまた、して良いものかどうか、迷うことがある。もう、ずいぶんと前のことだが、あるときわたしは、用があってペギーという老婦人に会いにった。

ドアのチャイムを押すと、垢抜けした身なりの、小柄なおばあちゃんが現れた。にっこり笑って迎えてくれた彼女は、七十代であろう。

白髪まじりのブロンドは、優しいウェーブのかかったショートカットで、きちんと控えめな化粧をしているが、唇だけはくっきりと、鮮やかなスカーレットのルージュが引かれていた。

"Hello, Nice to meet you."
そういって手を出しかけて、わたしは躊躇した。あれえ、目下の方から手を出しても、よかったんだっけ? 

たしか男性と女性では女性から、目下と目上では、目上のほうから手をさし出す――昔読んだエチケットの本に、そう書いてあったような気がする。

そんなことを考えているうちに、わたしは手を出すタイミングを逸してしまった。ペギーはペギーで、握手の習慣のない日本人に手をさし出したものかどうか、思案している按配だ。

右手を出しかけて、腰のあたりで、宙に浮いたままになっている。どうしたものかと迷っている気持が、こっちにも伝わってくるのだ。

初対面での挨拶は、その人の性格が表れる。気さくなおじさんなら、もう、三メートルくらいむこうから、やあやあと手をさしのべてくる。だから、こっちはそれを握りさえすればよい、とわかって、まことにありがたい。

わたしたちも、よけいなことを考えずにサッと手を出せば、相手にも好感を与えて、いいのかもしれない。ところがイギリス人はアメリカ人と違って、人見知りをする民族である。

だから実際には、初対面で手を出さない人も多い。特に男性は礼儀として、女性が手を出さないかぎり、自分からは出さないという人が多い。
ただ、この十年で挨拶も変わってきた。フォーマルな礼儀はだんだんと廃(すた)れ、カジュアルになってきている。

だから、現在は1のほうが多いような気がする。年齢が下がるにつれて、挨拶はぶっきらぼうになり、上がるにつれて丁寧になるのは、万国共通のようだ。その後、ペギーばあちゃんとは、会うたびに抱き合って、4の挨拶をするようになった。

挨拶にはかなり個人差があるにせよ、基本として、2を覚えておけば、まあ、間違いないだろう。


line-450x16.gif


では、初対面では、どんな場合でも2の挨拶をすればいいのか。というと、これがまた、そうじゃないからややこしい。

フランスに行ったとき、イギリス人のカップルと知り合った。ホテルの部屋がとなりだったために、口をきくようになったが、このとき、相手の男性と、"Hello"といって握手をした。

そのあとわたしは、いつものごとく"Nice to meet you"というと、彼は何もいわない。あれぇ、聞こえなかったのかなと思って、次に、彼の奥さんと握手したときに、意識してはっきりと"Nice to meet you"といってみた。

すると、彼女もそれに対して、何もいわない。
えっ? どうしてぇ?

わたしはきまりの悪い思いをし、いたく恥をかいた気がした。ふーん、そうかい。旅先での行きずりの人にまで、「会えてうれしい」とはいわないのか。それとも、それをいうのは、紹介されたときだけなの?
ええい、ややこしい。

初対面で握手をして知り合いになると、次からは頬にキスする人もいるし、いつまでたってもしない人もいる。また、一度キスした相手なら、次に会ったときにも必ずキスを交わすかというと、それもちょっと、あやしいのだ。

ああ、ややこしい。
んもー、イギリス人、えーかげんにして欲しい。

あるとき、通りで、知り合いの中年女性に、ばったり出会った。あらー、久しぶりじゃない、元気ぃ? などどいって、わたしに抱きついてきた。ははあ、この人とは、4のランクで挨拶すればいいのだな、よしよし、わかったぞ。

それから二、三日後、夕食に招かれていたので、彼女の家を訪問した。玄関のドアを開けた彼女に、わたしが抱き合う挨拶をしようとすると、相手には、まったくその気配がない。

わたしは、相手の体にまわしかけた手を、宙に浮かせて、きまり悪いったらありゃしない。また、恥をかいてしまった。

どうやら、たとえ4の挨拶をする間柄でも、つい二、三日前に会ったばかりという場合には、抱きあったりしないらしい。つまり、抱きあうのは相手との親密度だけでなく、会う頻度も加味して考えなばならないということ? ええい、ややこしい。

それに、キスをするにも、両頬にする人と、片方にしかしない人とある。わたしは、両方にするのが礼儀だと聞いていたので、片方にしかするつもりのない人に両頬にキスをしかけて、またまた恥をかいた。

こんな場合、男性は優しいから、あわてて別の頬にキスしてくれるが、女性はたいてい、うっとおしそうにするだけで、こっちもきまり悪そうに体を離すしかない。


line-450x16.gif


恥ずかしい話は、まだある。
「会えてうれしい」という意味の慣用句が、英語には二つある。ひとつは、nice to meet youで、もうひとつが nice to see you。わたしは、この二つがまったく同じだと、かなり長いあいだ思っていた。

ところが、meet は初対面でのみ、使える言葉なのだ。だから、初対面でも平気で、nice to see you といっていた。するとある日、はじめて会ったときは、nice to meet you というべきだと夫に注意された。

ははあ、さよか。じゃあ、初対面ではmeet で、次からは seeを使うのだな。よしよし、わかったぞ。

しばらくそうやって挨拶していると、また注意された。nice to see you は、別れるときに使うというのだ。

ひえええーっ!
ということは、つ、つまり、ここにいたるまでの約三年の長きにわたって、わたしはイギリス人に会ったとたん、別れの挨拶をしていたってことォ?

おお、恥ずかしい。そういえばいくらこっちが "Hello, nice to see you" といっても、相手はそんなことはいわなかったよなあ……。

それじゃ二度目からは何というか。
まずHelloといって、それから、やはり英会話テキスト挨拶編でおなじみの、 How are you?(いかがですか?)という。そして、こんどは別れるときに、会えてよかったという意味で、nice to see youという。

ところがあるとき、テレビのトーク番組を見ていたら、ゲストが出てきて、ホストにむかって"Nice to see you again"といった。

ほーら、ほらほら!やっぱりそうじゃないかッ。
父ちゃん、ほら、nice to see youと言ってるよ。

とオットットに詰問すると、最後にこのagain(再び)をつけるのがミソで、久しぶりに会って「またお会いできてうれしい」というときには、これを使うのだそうな。んもー、ややこしい。ミソもクソもないわい、そんなもんつけるなよォ。

もうこれ以上恥をかくのも厭なので、わたしは、どうしたものかと考えこんだ。腕組みをして、眉間にしわを寄せて、頭が禿げるほど考えた。すると、突然、天啓がくだった。

バカみたいに簡単なことだが、何のことはない、相手の出方を待てばよいのだ。相手の言葉を聞いて、相手の言葉をオウム返しにいえばいい。こうすれば、相手のランクに会う挨拶ができる。

最初からそうすりゃあよかったのに、相手に失礼のない挨拶をしなくちゃ(と思うことが、非常に日本人感覚なんだよなあ)と、気ばかりあせって、ずいぶんと遠まわりをしたものだ。

それから二年ぐらいたって、やっと正式なフォーマルな挨拶に、出会った。それは有名なゴルフコースのある町の、由緒あるホテルのロビーで、中年女性に紹介されたときのことである。

きちんとしたスーツを着たその女性は、わたしよりも年輩だったが、自分の方からサッと手を出して、"How do you do?"といった。わたしがその人の手を握って、おなじことをいうと、すかさず"Nice to meet you"ときた。

そこでわたしは、また相手とおなじ言葉をくり返した(だだし、nice to meet youを返すときは、youにストレスを置いて強く発音する)。

これでパーフェクト。ふーっ、やれやれ。
あーあ、挨拶ひとつに、いったい何年費やしたんだ、オラッチは。


★次のエッセイへ
★トップページへ
Sponsored Link

検索

カスタム検索

サブコンテンツ

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。