ベッドで朝食

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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ベッドで朝食

【 ベッドで朝食サービス】

日本で四週間の休暇を過ごして、金曜の晩に、イギリスに帰ってきた。ぐっすり眠った次の朝、カーテン越しの明るい光で目覚めると、先に起きていたオットットが、言った。

"Would you like me to pamper you?"

おっ、いいねえ、アレかい。久しぶり。
答はもちろん「Yes, please!」だ。

pamper という単語、辞書には、「過度に甘やかす」などと、載っている。わが家で、朝の会話に、この「甘やかしてほしい?」が出ると、それは「ベッドで朝食を食べたい?」 という意味になる。

おっと、誤解のないように、ここんとこを強調しておくが、朝食を作るのは、夫である。週末の朝、ベッドのなかでグータラしている妻に、夫がトーストと紅茶をお盆に載せて、ベッドまで運んでくださるのだ。

で、うちのオットットはロマンチストなので、こういうときはたいてい、クリスタルのグラスに庭から切ってきた花を一輪挿して、朝食といっしょに持ってきてくださる。その日の花は、一月というのに、暖冬のせいで狂い咲きしている、ピンクのバラだった。

「おー、サンキュー、サンキュー。わりィ、わりィ。あ、ついでに新聞もお願い」
と、グータラ妻は増長する。

ベッドで朝食をとりながら英紙タイムズを読むことは、まあ、わたしの人生における、ささやかな楽しみのひとつである。(タイムズといっても、わたしが読むのは、政治経済以外の紙面だから、むずかしい質問は、ダメよ)

概してイギリスの新聞は、日本のそれよりずっと面白い。特に週末の土曜、日曜は、別冊付録が何冊もついてくるので、読みごたえたっぷり。

日本ではほとんど知ることのない西洋史の一端から、有名ブランドデザイナーの私生活まで、記事は多義にわたって網羅されているので、興味を引くものが多いと、そのまま午前中ずっと、ベッドでグータラすることになる。

なんとまあ、スポイルされた女だろう――。
はい、ごもっとも。われながらそう思います。もっとも、子供がいないからできるんだろうね、こんなこと。

それにしても、だ。この《イギリス式ベッドで朝食》、うちの亭主が特別に優しいから、というわけではないのだ。イギリスには、夫が妻に朝食を作ってベッドに持っていくという、不思議な習慣があるらしい。

そりゃね、妻が病気だから夫が食事をベッドに運ぶ、というのならわかるよ。ところがそうじゃない。妻は、金属バットで殴っても死なないくらい、元気もりもり。それなのに、ベッドで食べるというのだから、なにそれぇ〜、おめーら、ええかげんにせーよ、なのである。


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聞くところによると、十九世紀のジョージ王朝、ヴィクトリア王朝の時代に、朝、ベッドで紅茶を飲む習慣があったそうな。当時は、一般家庭でも女中を雇っていたので、旦那さまや奥さまにお茶を出すのは、女中の仕事であった。

ところが時代が変わり、女中奉公という言葉が死語になると、こんどは、旦那さまが奥さまに、お茶を出すようになった。

「ええー、なんでェ? なんでイギリスの奥さんて、そんなにスポイルされてんのォ?」
日本人のわたしとしては、不思議でしょうがない。

「そりゃ、イギリスの男性は優しいからサ」
と、オットットはいう。

うううーむ、たしかに……。
わたしの知り合いに、南アフリカから来た女性がいるが、彼女がいみじくも看破したように、「イギリス人の男性と女性は、別の人種」である。これがおなじ国民かと驚くほど、男性と女性は性格が違う。

中世の騎士道に端を発して、女性はか弱き者、それを護るのが騎士の務め。そうやって、長年の歴史のなかで甘やかされたイギリス女性。それで、スポイルされちゃったのかなあ。

というのは、いえね、ここだけの話だけど、イギリス女性って、結構キツイ人が多いんですよォ。あ、もちろん、優しい女性もいますよ。でも、日本人とくらべて、感情の起伏の激しい人が多いように、見受けられる。

このことは、ホームスイテイの日本人生徒が、よく、「ホストマザーが怖い」と言うことからも、うかがえる。ホストマザーにキツく当たられて、ベソをかいている日本人生徒をなぐさめてくれるのが、たいてい、ホストファザーなのだ。

イギリスに、こんな冗談がある。
「イギリス人は、なぜインドを植民地にしたのでしょう?」
「そりゃ、イギリスでは、女と食べ物が悪いからサ」

そんな女性たちのために、せっせと朝食をベッドに運ぶ男性たち。うーん、どこまで優しいんだろう。優しいというより、忍耐強いというべきか。

もっとも、この習慣は、今の忙しいライフスタイルで、廃れる一方かもしれない。それでも、若い世代でも、新婚時代は、日曜日に夫が妻に朝食サービスをするんじゃないかしらん。


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あれは去年だったか、ケンブリッジで、義妹(といっても彼女のほうがわたしより年上だが)の六十歳の誕生パーティがあった。そのとき、彼女の夫、つまりわたしの夫の弟が、その席でスピーチをした。

内容は、日本人だったら照れくさくてとても言えないような、美しき夫婦愛の話だったが、彼は結婚当初から三十数年、ほとんど毎朝、今でも妻に朝食を作って枕元に運び続けているという(しつこいようだが、妻は病弱ではなく、元気もりもりである)。

そして、夫婦円満の秘訣はこれだ、みたいなことを、得意げにしゃべっていた。しかし弟にしろ、うちの亭主にしろ、フリート家にとってこれは、特別なことではない。

だって、彼らの父親が母親に、毎朝、朝食を作っては、ベッドに運んでいたのだもの。親がするのを見れば、子はそうするものだと思って、育つ。

そういう刷込みがインプットされた男と一緒になったのだから、めっけもんである。わたしが結婚したとき、オットットからオファーがあった。

「ベッドで朝食が食べたかったら、いつでも言って。作ってあげるからね」
やったァ。うん、西洋のオトコはええぞ、ええぞ。
最初はよかったネ、やっぱり。毎朝、気分はうふふである。

イギリスにはちゃーんと、ベッドでの食事のための、足の短いテーブルを売っている。それを買ってきて、「奥さま」の気分を味わった。

ところがそんな贅沢も、何日かすると、もういいと思うようになった。どうもわたしゃ根っからの日本人というか、貧乏性というか。

グータラが好きなくせに、なんか、こんなことしてもらったら申し訳ない、それに、サッサと起きたほうが、時間のロスもなくていいと、思うようになったのだ。

第一、朝一番にトイレに行くから、どっちみち、ベッドから出なくてはならない。それに、ものを食べるとなると、口をすすいでからにしたい。それならば、いっそのこと起きて、着替えて、顔を洗ったほうがいじゃないか。

それに、ベッドで食べると、どんなに気をつけても、パンくずが布団に落ちるので、後で掃除をしなければならない。

また、連日、朝っぱらから甘ったるいマーマレードを食べたくない、など、いろいろと理由もあって、丁寧にご辞退申し上げた。今では、わたしが《ベッドでの朝食サービス》を享受するのは、年に三、四回だろうか。

たまぁ〜の土曜日か日曜日、窓から差し込む朝の陽を浴びながら、夫が淹れてくれたミルクティを飲む。

パンは、日本のような、やたら厚いふわふわの白パンじゃない。オーツだのライ麦だの、雑穀の入ったブラウンブレッド。これが、おいしいのだ。

それをカリッと焼いて、少し冷ましてバターを塗って。(熱いうちに塗ると、バターが溶けて、せっかくカリッと焼いたのが、フニャフニャになってしまうから)

そしてマーマレードは、日本にあるようなオレンジ色のじゃない。濃い茶色で、オレンジの皮の厚さが五ミリもある、シックカットのやつ。セヴィル・オレンジの苦味が風味を添えて、英国のオトナのお味です。

そんなトーストをサクッとかじりながら、ベッドでタイムズを読む朝のひととき。
ま、これはこれで、極楽なんだけどネ。


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