手作り結婚式 (2)

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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手作り結婚式 (2)

【手作りウェディング Part 2】    
  
「来月日本に帰る前に、こっちでついでに結婚式しちゃいまーす」
妊娠娘のNちゃんは、ニコニコしていう。

オーマイガーッ!
口にこそ出していわなかったが、ルースとわたしは顔を見合わせて、全身これ「オーマイガーッ!」の人になって、固まってしまった。  

ちょ、ちょっと待ってよ。日本にいるボーイフレンド、つまり赤ちゃんの父親をイギリスに呼んで、ふたりだけで式を挙げるというけれど……。

二十二歳とはいえ、高校生にしか見えないNちゃんのこのアイデアは、ルースにとっては子供のおままごと、結婚ごっことしか受け取れない。
  
日本人であるわたしにとっては、〈ふたりきりで海外挙式〉は耳慣れた言葉である。が、それにしても、おいおい、結婚式なんて「ついで」にするもんとちゃうぞッ。

しかも、海外挙式というのは、専門の手配会社があって、何から何までコーディネートしてくれるものじゃないか。この田舎町には、そんな業者はない。
  
海外に飛んだ日本人カップルが、何なのかよくわからん建物の、廊下のようなところで、アルバイトらしき〈なんちゃって牧師〉さんによるインスタント結婚式を挙げたという話を、わたしは人づてに聞いたことがある。

Nちゃんの結婚式に対する軽さには、簡単で安上がりで、ウェディングドレスさえ着れればそれでいいという、安直な響きがあった。
  
ところがルースにとっては、外国でふたりきりで式を挙げるなんて、とんでもない話である。親が出席しないのは、結婚に反対しているからだ、絶対そうに違いないと息巻く。
  
わたしはNちゃんとじっくり話し合って、彼女の本意を確かめた。結婚して子供を育てていく覚悟は、どうやら本物らしい。それじゃあ、しゃーない、わかったよ、説得しますよ、ルースを。やれやれ……。

日本では、結婚式に莫大な費用がかかる、だから、海外で簡略に式を挙げるという方法が人気があること、そして両家の親御さんたちも、それを承諾したことなどを、ルースに説明した。
  
彼女はしぶしぶ納得したが、やはり結婚式に親を招ばないことで、最後まで、親はこの結婚に反対ではないかとの疑惑を、消せないでいた。

ルースとクライヴの夫婦は仕方なく、自分たちの行く教会をあたってみた。予想どおり、英国国教会では信者以外の結婚式はできないと、断られた。そりゃ、そうでしょう、総合結婚式場じゃないんだから。
  
このとき、一肌脱いでくれたのが、ルース夫妻の友人のマイクである。彼は、自分の行く統一改革派教会(1972年にできた新派)の牧師さんに頼み込んで、OKを取ってくれた。いやもう、式ができたのはひとえに、親身になってくれた彼のおかげなのだ。
  
ただ、一つだけ条件があって、それは牧師さんの言葉を通訳してくれる人がいること。マイクは勝手にもう、わたしが通訳をすればいいと思って、話を決めてきた。

そしてわたしも、それを聞いたとき、ははあ、例の「病めるときも健やかなるときも」という結婚の誓いを訳せばいいんだな、ほい、ほい、いいですよ、と軽く引き受けた。

これがとんでもない間違いだったことに、後になって気づくのだが……。


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思いがけず教会が確保できたおかげで、俄然、みんながその気になった。ルースは、自分の娘にブライドメイドをさせると張りきった。

式は三週間後の八月九日。式の後は、ルース宅の広い芝生の裏庭で、披露宴となる。さあ、忙しくなったぞ。準備することは山ほどある。

多忙なルースは時間をやりくりして、本当によくやってくれた。妊娠発覚以来、彼女の家は地雷原と化したが、英語がよくわからないNちゃんとの行き違いがあるたびに、双方でドッカーンと炸裂した。が、まあ、こりゃしょうがないや。
  
Nちゃんがロンドンへ行って買ってきた、シンデレラのようなウェディングドレスを見て、ルースは、あんなものを買うお金があるのなら、なぜそれを親の飛行機代に廻さないのかと、ぶつくさ文句をいっていた。ドレスは中古で六万円。それでは飛行機代には、とても無理なんだけどネ。
  
式が近づいて、いよいよ花婿のY君が到着した。Nちゃんより一、二歳年下だったと思うが、Tシャツに半ズボンの彼、ますますもって高校生のカップルにしか見えない。
  
式の二日前になって、最後の地雷がドッカーンと火を噴いた。
「なんなのよ、あの二人。誰の結婚式だと思ってんのよ」
ルースとクライヴが怒っている。式の準備で忙しいというのに、NちゃんとY君は連れ立ってロンドンへ行ってしまったというのだ。
  
そりゃサ、初めての外国だから、ロンドンを観光しておかなきゃっての、わかるよ。だけどネ、日本でなら自分たちや親がやるべきことを、親戚でも何でもないルースとクライヴが、やってくれているんだよ。それを放っといて遊びに行くって、どういうことよ。
  
ロンドンから帰ってきたふたりを叱ると、Nちゃんが泣き出す。あー、これだもんなあ。わかります、わかります、課長さん。部下の女の子、ミスを叱ると泣くし、叱らんことにはわかってくれない。やりにくいんですよねー。
  
さ、きょうのことはもういいから、明日はしっかりお手伝いしてちょうだいよ。明日はルースの友達も手伝いに来るし、午後から式のリハーサルもあるし、忙しいんだからね。
  
次の日――
わたしはみんなのランチを頼まれていたので、お昼に十二人分のサンドイッチをつくってルースの家に行くと、おー、やっちょる、やっちょる。

表で、NちゃんとY君は、明日花嫁が使う車を掃除している。大所帯のルースんちの車は、大型バンである。うーん、花嫁がこれに乗るのか。ま、トラックや耕運機よりはいいか。
  
芝を刈って、披露宴会場となる裏庭の掃除をする。庭用のテーブルと椅子を、近所の数軒から借りてきて、宴席をつくる。Nちゃんの英語学校の生徒や先生も招待したので、招待客は四十人くらいになるだろう。

ワイングラスや食器の準備。女性たちは、キッチンで明日のご馳走の用意をする。披露宴の料理は、ルースの友人たちも協力して、持ち寄ってくれることになっている。
  
ウェディングケーキもできた。ルースの友人の女医さんがケーキを焼いてくれて、Nちゃんとわたしがそれにアイシング(糖衣)のデコレーションを加え、新郎新婦の人形を飾った。朝から午後三時まで、みんなで働いた。そして立派な披露宴会場ができた。
  
それからわたしたちは、式のリハーサルのために教会に行った。ここで初めて、わたしは式を執り行う牧師さんに会った。マリーナ・ジェフリーという、五十代とおぼしき、温厚そうな女性の牧師さんである。

式の簡単なリハーサルを終えて、ジェフリー師は通訳のわたしとの打ち合わせに入った。
  
「式でわたしが言うことを、全部訳してくださいね」
「えええーっ、ぜ、全部ですかぁ?」
「もちろんです。花嫁花婿に、わたしが何をいっているのかを、ちゃんと理解してもらわないことにはね」
  
といって渡された結婚祝福式のシナリオを見ると、十二ページある。ひええー、こ、これを全部訳せってかぁ? 「ジョーキン(冗談)!」 という言葉を、かろうじて呑み込んだ。

なにしろ顔では笑っていても、師は「そうしないことには、ふたりを結婚させるわけにはいきまへんでえ」光線を、ビンビンとわたしに照射していたからだ。
  
しかし考えてみりゃ、そりゃそうだ。ちゃんとした教会である。どこやらの海外挙式のように、アルバイトの〈なんちゃって牧師〉が適当に執り行うのではないのだ。

ええい、こうなりゃ乗りかかった船だ、やりますよ、やっちゃいますよ。やりゃあいいんでしょ、やりゃあ。結婚式だろうが葬式だろうが、何でも来いっ。
  
ただ、問題は、こういうものは訳せばいいというものではない。それを儀式の言葉として人前で語るためには、自然でなめらかな日本語に、意訳しなければならない。

それにわたしは、日本語対訳の聖書を持っていないから、宗教用語もあやふやだ。あーあ、こりゃ徹夜だわ、今夜は。とほほ……。
  

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朝の三時までかかって、シナリオと聖書の引用文を翻訳した。あーあ、寝不足のうえに、目の下に隈をつくって、結婚式に出席かい。
  
教会に着くと、ジェフリー師からマイクを渡され、それを衿もとにつけたとたん、わたしはガチガチに緊張した。
「わー、本格的じゃん」
と、花嫁花婿は、わたしのマイクを見てキャッキャッと笑う。

こらっ、あんたたちッ、誰のためにあたしゃ寝不足で、おまけにこんなに緊張してるんだ、ほんとにもうっ……。
  
祭壇の前で、ジェフリー師と、通訳のタイミングなどの最終的な打ち合わせをして、スタンバイ、OK。合唱隊もそろった。教会に集まった人々の半分は、Nちゃんの学校の日本人生徒である。

花婿は、ベストマン(付添い人)のマイクと共に、祭壇の前に立つ。花嫁が、父親がわりのクライヴに付き添われて入場し、式が始まった。

ジェフリー師は、まず神への祈りを捧げ、結婚の目的を説いた。

《結婚の目的》
  
結婚は、神の思し召しであり、賜(たまもの)であります。結婚は、深慮なく行ってはなりません。キリストの教えに従い、責任と敬虔な気持を持って、行わなくてはなりません。

神は、夫と妻がおたがいに安らぎを与える伴侶となり、一生を通じて誠実であるために、わたしたちに結婚を授けられました。

神は、夫と妻がおたがいに愛しあい、尊敬しあい、励ましあい、優しさと喜びでおたがいを知るために、わたしたちに結婚を授けられました。

神は、子供を産み育てるために、そして子供が愛に包まれて成長するために、わたしたちに結婚を授けられました。(後略)
  

このあと、新郎新婦のための祈り、そしてふたりが右手をつないで、結婚の誓いの言葉を述べた。そして、指輪の交換。
  

《指輪の交換》
  
主よ、永遠なる愛を与え給う、われらが父よ、ふたりの指輪の交換を、祝福してください。
  
終わりのない愛と誠実のシンボルとして、そして、ふたりの誓いと、これからふたりがわかちあうすべてのもののシンボルとして、神の名のもとに、指輪を交換いたします。

この指輪が、どうか、きょうの誓いを思い出す因(よすが)となりますように。神のご加護をお祈りいたします。
 

ふたりはふたたび手をつなぎ、ジェフリー師はそれに自分の右手を重ねて、参列者に宣誓した。

  
《師の宣誓》
  
YさんとNさんは、神と皆さんの前で、キリスト教の結婚を誓いました。ふたりは手と手を重ねて、聖なる約束を交し、指輪を交換しました。

ゆえに、わたくしは、父なる神の名のもとに、ふたりを夫と妻と呼びます。神によって、ふたりは結ばれました。ふたりを引き離すことがあっては、なりません。
  
  
《神への祈り》
  
主よ、お聞きください。寛大なる御心でお聞きください。あなたの僕(しもべ)であるYさんとSさんを、どうぞ祝福してやってください。ふたりは命のかぎり、共に誠実に生きて行きます。
  
ふたりが優しく、辛抱強く、慈しみあい、信頼しあい、助けあってこれからの人生に立ち向かって行きますように。あなたの喜びで満たされたふたりの幸せを、どうか約束してください。
  
ふたりが困難に遭い、重荷を背負うとき、キリストの教えによってそれに強く耐えてゆく力を、お与えください。ふたりが傷つけあったときには、おたがいの過ちに気づき、おたがいを許しあう思いやりの心をお与えください。
  
子供を授かったときには、ふたりが愛に満ちて、賢く、そして慈しみ深い両親となりますように。ふたりの家庭を、あなたの平和で満たしてやってください。そこが、訪れる人にとって歓迎と希望の場所となりますように。どうか平穏な家庭でありますように。(後略)
  

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これを訳していて、目から鱗が落ちた。やっとわかったのだ、なぜジェフリー師が通訳をつけることを条件にしたのか。

式のなかで師は、神に祈ってくださる。どうかこの結婚が、ふたりに心の安らぎを与えますように、これからの人生が幸せでありますように、ふたりで力をあわせて、困難に耐えていきますように。

何度も、何度も、祈ってくださる。
そして、愛は忍耐であると、教えてくださる。
  
わたしは自分の結婚式では、牧師さんの話を聞く余裕はなかった。結婚の誓いを、英語でトチらずに言うことだけを考えていた。それに、わたしの結婚式は、もう少し簡略だった。宗派や牧師さんによって、違うのかもしれない。
  
Nちゃんの結婚式は、わたしがこれまで参列したうちで、一番いい結婚式だった。自分が通訳をしたからそう言うのではない。ホストファミリーの一家と友達が、愛を寄せ合って紡いだ、地味だけれど、手づくりの、あったかい婚礼だった。
  
あれから七年――
Nちゃんは今、三人の子の母である。

No.67 2004/7/3

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