クレタ島

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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イギリス生活よもやま話【ブログ】

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クレタ島

【太陽を買う】  
 
一週間ほど、ギリシャのクレタ島に行ってきた。
たしかにクレタに行ったのだけれど、どうも、なんちゅうか、こう、外国へ行ってきたという気がしないのだ。いやいや、クレタがイギリスと似ているというわけじゃない。気候も、景色も違う。
  
それなのになぜだろうと振り返って、ハタと思い当たった。それは、民族大移動したんじゃないかと思うくらい、クレタ中がイギリス人であふれていたからだ。

レストランでもカフェでも、まわりのテーブルから聞こえてくるのは英語だし、道を聞けばコクニー訛りの英語が返ってきたりする。そして、このイギリス人たちの旅行は、日本人のギリシャ旅行とはまったく違う。

日本の旅行会社なら、たとえば〈ギリシャ、エーゲ海クルーズ10日間〉などというツアーがあって、本土のアテネやデルフィを見て、それからクルーズ船に乗ってミコノス島、ロードス島、サントリーニ島を巡り、そして、クレタ島でミノア文明のクノッソス宮殿の遺跡を訪ねる。と、まあ、これが一般的なコースである。
  
もちろん、イギリスにもこういうツアーはあるが、イギリス人がわんさか押しかけるのはそっちのツアーではなくて、こっちのツアー。

つまり、旅行代理店の広告に、ぶっといゴシック体で〈太陽!〉と大書されている、〈なにがなんでも日光浴、ギリシャ文明なんぞどうでもええ〉ツアーである。
    
ギリシャくんだりまで行って、水着になって日がな一日、プールサイドや海辺で日光浴。これを一週間、二週間続けるというスケジュールは、日本人にはおそらく理解できないだろう。もちろん多少の観光はあるにせよ、メインは日光浴である。
  
お肌の曲がり角はとっくの昔に曲がりきってしまったわたしなぞ、紫外線対策に、日焼け止めクリームと帽子で武装する。それでも手が黒くなるのが気になって、いっそのこと、エリザベス女王のように手袋をしたろかいっ、と思ったりする。

ところがイギリス人ときたら、ここを先途と肌を焼き、一年分の日光を吸収するのだ。その結果、白人の肌は赤く焼け、そのあとに残るのは醜いシミ。だからイギリスのショッピングカタログを開くと、セクシーな下着のモデルの肌がシミだらけだったりする。

そんなにしてまで、焼きたいか?
――そう、焼きたいのだ。それほど、太陽に飢えているのだ。
  
なにしろイギリスという国は、一年の大半が曇り空。だから焼くというよりは、ただひたすら太陽の光に当たりたい、その切なる願い、悲願なのだ。

そしてこの悲願が〈太陽ツアー〉のための専門の旅行会社を産み、大繁盛させていることを、今回の旅でわたしは、改めて認識したのである。
  

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そもそも、ギリシャに行こうと言い出したのは、考古学と建築と、バードウォッチングとハイキングに興味のある夫である。旅行の目的地は、この四つの条件を満たす所が望ましい。何冊ものガイドブックを繰りながら、彼は丹念に下調べをする。
  
アテネは昔行ったから、こんどはクレタ島のクノッソス宮殿だな。ミノア文明の遺跡がいっぱいあるぞ。ハイキングには、やっぱり五月だね、野の花が一番きれいなときだから。

おおっ、クレタには、ラマガイヤがいるのかっ。コンドルの仲間のでっかい鳥だよ。ね、きみも見たいだろ。うん、よしよし、これで決まりだな。
  
あのー、わたしはまだアテネには行ってないんですけど……、というひかえめな抗議はあっさり無視され、奴は勝手に、宿やらフライトやら、レンタカーやら、出発前夜に泊まる空港近くのホテルやら、一週間車を預けておく駐車場やら、予約してしまった。
  
クレタ島への便は、普通のフライトでは、まずアテネに飛んで、それから国内便のクレタ行きに乗り換える。ところが、チャーター便ならクレタに直行すると聞いて、今回はじめて、わたしたちはチャーター便なるものを経験した。
  
普通の航空会社のフライトを「スケジュール・フライト」と呼ぶのに対して、旅行会社のフライトを「チャーター・フライト」と呼ぶ。スケジュール便は、主に各国の都市を結んでいるが、チャーター便はリゾート地に直行する。つまり、市バスと観光バスの違いのようなものか。
  
イギリスには、太陽ツアーのための専門の旅行会社がいくつかあるが、驚いたのは、それぞれが専用のジェット機を持っていることだ。だから機体には、「ファースト・チョイス」だの、「マイ・トラベル」だの、旅行会社の名前が書いてある。
  
そして、チャーター便だから小型機だろうと思っていたら、なんのなんの、ボーイング767。ざっと座席を見渡したところ、満席に近い。ということは、乗客の数は300に近い。うーむむむ。これだけのイギリス人が、一挙に、甲羅干しに行くのか……。
  
わたしたちが利用したマイ・トラベルは、現在、31機のジェット機を稼動させている。太陽ツアーは、イギリス国内の21の空港から出発し、地中海とカリブ海を中心とする52のリゾート地に、飛んでいる。
  
しかし考えてみれば、これは異様なことである。日本でいえば、たとえば日本交通公社が、尾翼に「JTB」とペイントしたジェット機を30機ぐらい保有していて、それに300人の乗客を乗せて、日光浴のために飛ばすと想像すれば……。
  
しかも、イギリスの太陽ツアーの旅行会社は、一社ではない。いくつかが競合している上に、一般の航空会社でリゾートチャーター便を飛ばしているものもある。これだけ競合していて、なおかつ太陽ツアーが商売として成り立つのだから、いやはや、なんとも……。
  
わたしがイギリスに来てまもないころ、解せないことがひとつあった。それは、アリューシャン列島とおなじ緯度にある北国のイギリスで、真冬でも水着を売っていることだ。

それが不思議でしょうがなかったのだが、今となって実際に太陽ツアーの現実を目の当たりにすれば、それは大いに必要性のあることだとうなづける。
  

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こういった状況はイギリスのみならず、他の太陽の乏しい北ヨーロッパの国々でも見られるようだ。リゾートでよく出会うのはドイツ人で、あとはフィンランド人、ロシア人など。

クレタの空港では「SWISS SUN」というロゴのチャーター機を見かけたので、スイス人などもいるようだが、リゾートホテルを占める二大勢力は、なんといっても、イギリス人とドイツ人である。
  
そこで、ちょっと笑える話がある。
リゾートホテルのプールサイドには、サンラウンジャーという日光浴用の寝椅子が備え付けてある。が、それは数が限られている。そこで勃発するのが〈イギリスVSドイツ、サンラウンジャー争奪戦争〉である。
  
先の戦争でドイツはイギリスに負けたが、この戦争では圧勝だ。南国の太陽がさんさんと輝く朝、さ、日光浴しましょ、とイギリス人がプールサイドに行って見ると、それはもうみーんなドイツ人に占領されている。イギリス人は、地団太踏んでくやしがる。
  
じゃ、もっと早く行けばいいじゃないか。
――ところが、ところが、早く行ってもおなじこと。ドイツ人たちは、サンラウンジャーの上にタオルを置いて席取りをしているので、やっぱりイギリス人は座れないのだ。
  
これに似た話は、カナリア諸島のリゾートでも耳にした。そうそう、「オバタリアン」の漫画に、電車の空席に自分の持ち物を投げて席取りする話があったっけ。それを思い出して笑えてくる。
  
ったく、これだからジャーマンはッ! と、イギリス人同士でブチブチと文句はいうが、いくらジャーマンが席取りをするからといって、よおし、じゃあ、こっちでもやってやろうじゃないか――、とはならない。

イギリス人は、そんなことはしない。それは、彼らがオトナだからだろう。そして今でも残る「紳士の国」の威厳というか、誇り、あるいはフェアプレイの精神を重んじる国民性が、それを止(とど)めているのだろう。
  
つい先日も、英紙タイムズの旅行欄に、イタリアのリゾートホテルで、ドイツ人の夫婦が、プールサイドで使ったサンベッドを人に取られまいとして、夜になったら自室に運んでキープした話が載っていた。
  
いやいや、新聞はドイツ人を攻撃しているのではない。それを笑える話として載せているのだ。イギリス人は、そうやってドイツ人を嗤(わら)うことによって、鬱憤晴らしでもせんことには、やってられんわ、ということなのかもネ。


No.60 2004/5/16

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