ガーデニング

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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ガーデニング

【イングリッシュ・ガーデニング】  
  
  
お春、戻ってきてくれたんやな――。
  
これは、かの岡林信康さま――若い方はご存じないでしょうが、かつてフォークの神様と呼ばれたお方であります――が、京都の田舎で自給自足の暮らしをし、農業を通して太陽の恩恵を実感したときの言葉である。
  
暗くて長い陰鬱な冬が終って、イギリスにもようやくお春さんが来てくれた。わが家の庭で冬眠していたカエルどもが起きだして、ピョンコピョンコと池をめざしていたのがつい先日だと思ったら、もう、池の水面に、大量の卵が浮いている。
  
水はぬるみ、陽は燦々と輝き、芝は緑に萌える。そんな日に、コンサーヴァトリー(サンルーム)で、ソファにゆったりと座って目を閉じると、燃えるような緋色の視野が広がる。まだ風は冷たいけれど、ガラス越しの陽気はポカポカとあったかい。

ようやっと、うれしい季節がやってきた。
ああ、お春さん、あんたをどれだけ待ちわびたことか……。
  
さて、春といえばガーデニング。
ひところ日本では、「イングリッシュ・ガーデニング」が大ブームだった。

ブームにあやかって、旅行会社が企画した「英国庭園巡り」ツアーでやって来る日本人団体客、そして「ガーデニング留学」とやらでやって来る若い女性たちを眺めながら、なんでやねん? なんでまたそんなことがブームになるのだろうかと、不思議でならなかった。
  
バラを植えましょう。
ラベンダーを植えて、アロマセラピーに使いましょう。
そしてハーブも植えて、ハーブガーデンをつくりましょう。
  
てなイメージだろうが、いや、しかしねえ、ちょっと待っていただきたい。それなら何も、イングリッシュ・ガーデニングでなくても、これまで通り「園芸」でええのんとちゃう? きっと、カタカナ大好きのマスコミが、扇動して、盛り上げたブームなんでしょうなあ、これは。
  
イギリスのガーデニングの基本は、まず芝生の手入れである。これを放っておくと、すぐに雑草が生えるし、夏の散水を怠ると、たちまち枯れてしまう。

そして、週に一度の芝刈りも、欠かせない。この刈った芝や、台所の生ゴミで、堆肥をつくって、それを花壇に使うという一環した作業が、理想のガーデニングである。
  
日本とイギリスでは、住宅事情が違うからそうはいかないが、イギリスでは家を買うと、芝生の庭が、グリコのおまけ的についてくる。いらんといっても、ついてくる(もちろん、集合住宅の場合は別だが)。

だから金持だろうと貧乏人だろうと、芝生の庭は持っている。ただ、その広さと手入れや庭用の設備が、金のあるなしで違ってくる、というだけのことなのだ。
  

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わたしにとってのイングリッシュ・ガーデニングのイメージは、「農作業」、「林業」、「肉体労働」である。だからこれをやるようになって、マニキュアとはぷっつり縁が切れた。
  
たとえばハーブガーデン。カタカナでいえばガーデンかもしれないが、これは、はっきりいって畑である。料理用のハーブを自給するために、わたしは、庭の隅を耕して畑をつくった。

わずか畳一枚分の畑でも、土を鍬で耕して苗床をつくれば、額に汗が吹き出る。そしてそれがぽとぽと、目に入ってくる。
  
土を返せば、ミミズだのイモムシだのが出てくる。日本にいたときには、これらを見ただけでキャッと飛び上がっていた。

ところが、掘り返したミミズやイモムシをそのままにしておくのはかわいそう、土の中に帰してやろうとしているうちに、手でつかめるようになった。
  
とはいっても、まだまだ修行が足らんから、つかむのは軍手の上から。素手ではとても、あのにゅるにゅるには、さわれない。しかし、ミミズ君は土を耕してくれる働き者なので、いつか素手で頭(どっちが頭だ?)をなでなでしてあげたいものだと、精進に努めている。
  
今では、庭の小さな生き物たちとは、ことごとく友好条約を締結したものの、まだ冷戦が続いているものがいる。

それは、毛虫のコンチクショーである。わたしはクモなどは平気なのに、毛虫だけはダメで、見つけるとギャッと一メートルは飛び上がる。そして、背中がぞわっと寒くなる。
  
野鳥に餌付けをしているために、農薬を使わないわが家の庭では、虫も多い。そのたびにギャッと飛び上がるので、わたしの庭いじりはとても疲れる。

オットットは子供のころ、よく毛虫を育てて蝶に孵したそうで、あろうことか、毛虫をてのひらに乗せて「キュート!」などと甘い声を出し、チュッチュとキスの真似をする。変態じゃないかと思う。


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イギリス式庭園で人気があるのは、ハーベイシャス・ボーダーといって、庭の中央にある芝生のまわりをぐるりと縁取るような形で花壇をつくるスタイルである。

もちろん、庭の大きさやデザインによってボーダーの幅や長さは違ってくるが、わが家のようなさほど大きくない庭でも、ボーダーを花で埋めようと思えば、苗が百本は必要となる。
  
怠慢なわたしは、できるだけ多年生のものを植えているが、ボーダーの手前の方に植えるペチュニアやインペイシェンスなどの背の低い花は、一年草である。毎年、百本からの苗を買うとなれば、かなりの出費なので、ケチなわたしは、種から育てている。
  
専用の発芽ケースに、ペチュニアの種をまいて、コンサーヴァトリーに置くと、三〜四日で芽が出る。ところがその芽はあまりにも細くて弱々しく、水をやっただけで倒れてしまうことがある。はたしてちゃんと育つのだろうか、と心配になる。
  
この小さな苗を、わたしは〈マイ・ベイビーズ〉と呼んでいる。そして毎日の水遣りのたびに、「はーい、ベイビーちゃんたち、きょうも良い子でちゅね〜。ミルクの時間でちゅよ〜」と甘ったるい声をかけている。

これを耳にするたびにオットットは、はたして妻は、ぼくにあんな声をかけてくれたことがあるだろうかと、ブツクサいう。
  
わが家の庭では、有機農業をめざしているので、肥料も、堆肥や馬糞などの有機肥料である。特にバラには、よく熟成した馬糞が一番だ。

イギリスで、有名な庭園に行くたびに、わたしはバラの根元をチェックするのだが、そこに施してあるのは、ほとんどが馬糞である。
  
施肥をしたら、こんどは庭木の枝を刈り込まないと。フェンスを這うアイビーも、去年刈り込むのを忘れていたら、あっというまにりんごの木に取り付いてしまった。

りんごの木に梯子をかけて、重い刈り込み鋏でアイビーを取ったら、次の日は、腕も腰も筋肉痛。
  
そうだ、ツルバラの這う鉄パイプのアーチが腐ってきているから、補強しないといけないな。隣の庭との境にある木も刈らないと、お隣の奥さんから、日照が悪くなると苦情が出る。これはオットットにやってもらおう。

あー、芝生も刈り込まないと。それから、大きくなったペチュニアの苗を、花壇に移さないと……。ガーデニングの作業は、エンドレスで続いていく。
  
手入れの行き届いたイギリスの庭園は、美しい。しかも、他国と違うのは、どんなに美しい芝生でも「芝生に入らないでください」という札がないことだ。イギリスでは、芝は、その上を歩くためのカーペットである。
  
その緑のカーペットの上に、ツルバラの繁る四阿(あずまや)を配し、ガーデン用のテーブルと椅子で、花を愛でながら午後のお茶を楽しむ。

――なーんて、たしかにイギリス式庭園は、ロマンチックである。そして、日本の若い女性は、こういったイメージに憧れるかもしれない。
  
でもね、こういうものは、額に汗して、地面に這いつくばって、馬糞にまみれて手入れをし、毛虫に飛び上がり、バラの棘で引っかき傷をつくり、日焼けしてお肌が紫外線にやられ、筋肉痛に耐えてこそ、得られるものなのですぞ。

もっとも、庭師を雇えば、話は別ですがネ。


No.57 2004/4/17

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