ウイルス

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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イギリス生活よもやま話【ブログ】

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ウイルス

【ウイルス騒動】
  
それはちょっとした不調から始まった。パソコンでインターネットに接続するたびに「ページを表示できません」という警告が出たり、すぐにフリーズしたりする。
  
それがウイルスのせいだとは夢にも思わず、うんもう、かったるいなあ、とぼやいていた。ウイルスを露も疑わなかったのは、自信があったからだ。

パソコンを始めて三年間、わたしは知らないところから来た添付メールは「ふっふっふ、だまそうったってそうはいかんぞ。ええいっ、こうしてくれるわっ」と、ことごとく削除の刑に処していたのだから。
  
そのうち、自分のホームページの掲示板で、書き込みに返信する機能が使えなくなった。ここに至ってもまだ、わたしは「再起動したらいけるかしらん?」などと考えるアホであった。
  
そうこうしているうちに、日本の甥から「ウイルスに感染してやしませんか?」というメールが来た。しかし、わたしは最近、怪しげなメールはまったく受け取っていなかった。

だから「パソコンが不調なんだけど、ウイルスは大丈夫で〜す」と、余裕のレスを送った。まさに《めでためでたの花笠音頭的アホ》であった。
  
それでもちょいと気になって、夕食のときにオットットに聞いてみた。
「ウイルスに感染していないかってメールが来たんだけど、うちは大丈夫だよね?」
「……あー、そういえば、ぼくんとこに、ヘンなメールが来てたんだ」

わたしは、かき込んでいたチャーハンを、ぶぶぶーっと噴き出してしまった。なっ、なんやてぇーッ?!

オットットのセーターに飛び散ったごはんつぶを回収して口に放り込み、わたしは二階に駆け上がった。
  
わたしのパソコンは、日本製のラップトップ(ノートパソコン)である。この一台で日本語用と英語用、それぞれ別のドメインから取得したメールアドレスを使っている。

英語用はオットット専用のメールボックスだが、いくらパソコンに疎い彼とて、〈知らない所からの添付メールは開けちゃダメ〉という常識ぐらいは知っているだろうから、わたしはめったにそれをチェックしないし、この三年間、それで無事にやってきた。
  
それなのに、ったく、なんてことをしてくれたんだッ。オットットが「ヘンだ」というメールは、件名が「Re.Your bill」で、送信者はbtinternet.comとなっている。

BTは日本のNTTに相当する電話会社である。そして「Your bill」は請求書のこと。あれ? うちのプロバイダーはBTじゃないのに、請求書が来るなんておかしいなあ。

と、普通ならここで、ピーポー、ピーポーとウイルス警報が鳴りひびき、警戒ブレーキがキキキーッとかかるはずなのに、ああ、哀しいかな、ここはイギリスである。

銀行が振込先を間違えたり、間違った口座明細書を平気で送りつけてくる国である。銀行さえ信用できないのに、どうして電話会社が信用できる? 

どうせ間違えて請求書を送ってきたんだろうから、間違いだぞ、と文句をいってやらにゃいかん。

わたしの頭にあったのは、「ったくもうッ」という憤怒だけ。もちろん、送信者のアドレスがウイルスによって偽造されたものだなど、この時点では知る由もない。
  
文句をいうためには、どんな請求書なのか、開けて調べなくてはならない。いったい、BTは何を請求してきたんだっ!

クリック!
  
はっ? わ、わたし、今、何した?
うんだああああああーーっ! あ、あ、開けてしもたぁぁぁ!
  
オットットの前なので、この叫びをかろうじて喉の奥に封じ込めて、平静を装った。しかし、画面では何の変化もない。

あ、そうか。考えてみりゃ、もうすでにオットットが開けてるんだ。ほっ、感染させた張本人はあくまでも彼であって、わたしじゃないもんね。

  
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次の朝、甥の母親であるTちゃんからのメールが届いた。
「今、そちらのPCがウイルスに感染して、撒き散らしてます。私んとこにもてんこ盛り、イギリスから届いてますよ」
  
ひええええーーっ!
  
ど、どどどうしたらいいのだ? 
わたしのまわりのパソコンに詳しい人や、ウイルス感染の経験者、思いつく相手に片っ端からから電話を入れるが、相手は外出中だったりして、なかなかつかまらない。

あちこち電話をしていたオットットが、昼食のしたくをしていたわたしのところにやってきた。悲愴な顔をしている。
「パソコンショップで聞いたら、リカバリーをやってくれるけど……、六百ポンドかかるって」
  
ええーっ、そんなにィ? 
六百ポンドといえば、十二万円くらい……。

それなら、新品を買うほうがましか。わたしの脳裡では、青空を背景に羽がはえた一万円札が次々と、天使のごとく飛び交っていた。
  
すると、オットットは急に破顏して、キヒヒヒと笑った。
「今日、何の日?」
きょうは、えーと……、ハッ、エイプリルフール!

ええい、アホめが! そんなことやってるバヤイとちゃうやろがッ!
奴は、事の重大さが、ぜんぜんわかっとらん。人さまに迷惑をかけているということが、まったく呑み込めていないらしい。
  
結局、友人のアドバイスに従い、カンタベリーのパソコン屋にパソコンを持って行って、リカバリーを頼むことになったが、時刻はすでに閉店タイムを過ぎていた。

次の日の朝、車でカンタベリーへ。店に着いて後部座席のドアを開けて、
ひええええーーっ!
  
座席に置いたはずのラップトップが、床に落ちている。
はっ、あのとき……。

あせっていたわたしが、信号で急ブレーキを踏んだとき、ゴトッと鈍い音がしたっけ。あのときに落ちたのだ。
こ、壊れたぁ?
  
またもや、羽の生えた一万円札が青空に飛んでいくアニメが浮かぶ。もちろん、専用のキャリーケースに入れてはいるのだが。

そういえば、わたしの友人は、移動のときはラップトップは必ず車の床に置いていたっけ。ああ、神様、仏様、どうか壊れていませんように。南無、南無……。

  
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幸い、パソコンは無事だった。やはりこれは、日頃のわたしの精進(どんな?)の賜物であろう。

このパソコンショップには、「PCクリニック」という修理サービスコーナーがある。ツンツンと尖ったスパイキーなヘアスタイルの兄ちゃんが、わたしのパソコンを見るなり苦笑いした。

それは「英語じゃねーじゃねーか。困るんだよな、こーゆーのは」という笑いである。いやーな予感。
  
とりあえず、ウイルスの検索を始めたのだが、わたしのパソコンに入っているセキュリティソフトは、2001年から更新をしていないという役立たず。

スパイク兄ちゃんが、それを使って検索を始めたものだから、夫とわ
たしは、思わず顔を見合わせた。
  
おいおい、新しいソフトでやってくれよと夫がいうと、兄ちゃんは、ああ、そっか、そっかとデスクの引き出しからCD−ROMを出してきた。

やれやれ。それにしてもスパイク兄ちゃん、大丈夫か? 
またもや、いやーな予感。  
  
かなりの時間がかかったが、ウイルスが検出された。これを駆除するのに、表示が日本語なのでいちいち通訳しなくてはならないが、事は思ったほど簡単じゃない。

たとえば、○○の機能はどうやって出すのかと聞かれても、○○を日本語のコンピュータ用語で何というのかわからない。しかも、○○がこのPCのどこにあるのかもわからない。

さらに、単語ならまだしも、略字でMDVはどこにあるのか、などと聞かれては、もう完全にお手上げである。
  
兄ちゃんとわたしは、この通訳作戦にたちまち限界を感じて、次に言語変換作戦に移った。パソコンの言語の設定を、日本語から英語に切り替えるのだ。コントロールパネルで設定を変換するのだが、なぜか何度やっても替わらない。
  
わたしが一番恐れているのは、イギリス人にパソコンをいじられたあげく、日本語機能を失うことだ。

以前に、ある日本人留学生が、日本から持参したラップトップでインターネットを始めたいといって、エンジニアに来てもらったことがある。

そのとき、やはり言語の設定を日本語から英語に替えたのに、なぜか機能しなかった。そこでエンジニアは、「ええーい、日本語なんかでやってられっか!」とブチ切れて、無理矢理中身を英語に替えてしまったのだ。

「それ以来、わたしのパソコンは表示もすべて英語で出るんですぅ〜、トホホ」と涙していた彼女の顔が浮かんでくる。
  
スパイク兄ちゃんはそこまでやる根性はないらしく、あっさりと「英語じゃないからできませ〜ん。○○のリカバリーソフトを買って、自分でやってください」と申し渡した。

そ、そんなぁ、と狼狽するわたしに「簡単、簡単。どってことないっス」といって、店の棚からソフトを持って来た。はい、レジはあちら、代金は30ポンドね。 
  
ひゅるるる〜と、寒風吹きすさぶ嵐が丘の荒野――。
ひとり残されたわたしは、亡霊のごとく、あてもなく彷徨う……。
  
イギリスの暮らしでそんな孤独を感じるのが、こんなときだ。機械が日本語だから、誰も助けてはくれない。まさに孤軍奮闘。

英文の説明書を読みながら、コンピュータ用語に四苦八苦しながら、たったひとりでやるしかないのだ。

   
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新しいセキュリティソフトをインストールすると、それは、たちまちウイルスを検出した。W32/Netsky−Dというトロイの木馬型。

これは、メールの添付ファイルを開いたときに、偽のエラーメッセージを表示して、感染したことに気づかせないようにしているという。これでは、夫がまったく感染に気づかなかったのも、無理はない。
  
そして、コンピュータ内の特定の拡張子のファイルからメールアドレスを取得し、そのアドレス宛てに、送信者アドレスを詐称した上で、勝手にウイルスメールを送信してしまう。
  
検出、隔離、駆除、ウイルスファイルの削除、修復という一連の作業を、ソフトが自動的にやってくれたようだが、これでいいのか、自分の操作にミスはなかったのか、不安は常につきまとう。

それでも、まあ、パソコンの調子がもとにもどったので、よしとするしかない。
  
「やれやれ、これで寿命が五年は縮まったよ。これからはウイルスに気をつけてよね」
というと、オットットは目をクリクリさせて反撃に出た。
「ぼくだけのせいじゃないよ」
  
おーっと、出ましたッ! 
イギリス人お得意の、「It's not my fault(わたしのせいじゃない)」
これは、イギリス人が責任のがれをするときに、必ずいうセリフである。
  
「きみのウェブサイトにも、問題があるんだ」
「はあ〜?」
わたし以上にコンピュータのことがわかっていないオットットは、軌道を逸した屁理屈で武装し、反撃してくる。
  
「第一、きみだってあれをクリックしたじゃないか。だからぼくだけが悪いんじゃないッ」
何を寝言いうとんねん。わたしがクリックしたのは、あんたが感染させた後。最初にあれを開けたのは、あんたじゃないか。

たしかに、わたしも「請求書」という件名を見ただけで開けてしまった。それは認める。だから、一方的に彼を責めているわけじゃないのに。
  
ただ、わたしは、このウイルス騒動のラストシーンを、
「悪かった、ごめん。こんどから気をつけるね」
「ええ、わたしも気をつけるから、あなたもね」
「うん、お互いに気をつけようね」

と手を取りあって互いに悔い改め、美しき夫婦愛(?)の言葉でチャンチャン、と締めくくりたかったのだ。
  
それなのに奴は、あくまでも、わたしも開けたということに拘泥して、感染させたのが自分であるという事実を認めようとしないのだ。

まったく、典型的なイギリス人のパターンである。これだからイギリス人は困っちゃう。自分に責任がかかってくると思うと、彼らは絶対に自分の非を認めようとはしないんだもん。
  
こら、夫。あんたネ、しょうもない屁理屈ばっかりこいてないで、少しは反省しろよ、反省。日本じゃ、猿でも反省するんだぞ。

No.56 2004/4/10
  
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