約束

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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イギリス生活よもやま話【ブログ】

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約束

【ひたすら待つ】  
  
わたしは、不機嫌である。ここのところ、じつに不機嫌なのだ。
「なーんでイギリスはこうなのよッ。ったくもう」
と叫ぶと、夫は聞えないふりをする。
  
「なーんでイギリス人は約束を守らないのッ? 平気ですっぽかしてッ。よくもまあ、あんなことができるもんだ。日本でこんなことしたら、商売やっていけないよッ」
腹が立つから、イギリス人である夫に当り散らすしかない。
  
わたしは、つかつかと夫の前に行って大声を張り上げる。
聞こえないふりなんか、させるもんか。

「イギリス人ってホント、信用できない。エッ? そうでしょッ? 日本じゃこんなことってありえないよ」
「う、うん。……困ったもんだ。でも、そのうち来るよ」
「そのうちって、いつよ? エッ? いつ来るの? イギリス人の《そのうち》って百年先のこと?」
  
わたしは目を三角につりあげて、キイキイいう。あてにならないのが事実だから、夫は反論できない。

イギリス人に約束をすっぽかされるのはいつものことだが、たまたまこの一週間のうちに五件続けておなじことが起こったので、あたしゃブチ切れてしまったのだ。
  
月曜日に、保険屋がカメラを引取りに来るといって、来ない。一眼レフのカメラが故障したのだが、掛けていた家財保険で修理代がカバーできるとわかって、保険屋に連絡した。

すると、保険屋と提携している修理屋に出すのでカメラを取りに来るという。だからカメラを梱包して待っていたのだが、来なかった。もちろん何の連絡もない。
  
火曜日に古道具屋が来るといって、来ない。しかも、向こうが午後四時から五時までの間に来ると時間を限定しておいて、このザマだ。今うちにある二つの肘掛椅子を、引取ってもらうために呼んだのだが。
  
水曜日、修理に出していたグランドファーザー・クロックができたから持ってくるといって、来ない。アンティーク時計専門の修理屋に修理に出したとき、二週間でお届けしますといって、その後何の連絡もない。七週間が経過してやっと、修理ができたという。
  
わたしが理解できないのは、「明日の午前中にお届けします」と向こうから電話を入れておきながら、来ないということ。こういったイギリスの現実を目の当たりにすると、なんと日本人は誠実な人種だろうと感嘆する。

  
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カンタベリーの楽器店に、入手したい楽譜のことで、問い合わせの電話を入れた。その店にストックしていないので、取寄せが可能かどうかを連絡するといって、まだ連絡がない。三日が経っている。
  
あれはどうなったのかと、こちらから訊いてもいいが、どうせ、またもう一度調べて連絡する、という返事が返ってくるに決まっている。そしてその連絡さえも、もらえるかどうかわかったもんじゃない。だから訊く気が萎える。
    
わが家の二階の窓がきちんと閉まらなくなったので、ダブルグレイジング(二層ガラス窓)を施工した業者に、直してくれと電話したのが、先週の木曜日。

閉まらないのは、錠の金具が一ミリほど突き出ていて、それが窓枠に引っかかるからだ。トンカチで金具を叩いてみたが、引っ込んではくれない。
  
そう説明すると、窓屋は「思いっきり力を込めて閉めると閉まる」という。
アホかいな、あんたはッ。うんもう、これだからイギリスはどうしょうもない。

そりゃ、思いっきり力を込めて閉めれば閉まるわさ、たしかに。しかし、窓枠は硬質とはいえプラスチックだよ。すでに、その出っ張った金具のために、白い窓枠に傷がついているのだ。
  
そこに力づくで閉めて、さらにその傷を大きくしろと、窓屋はアドバイスしているのである。いやはやイギリス人の、いや、西欧人の脳みその荒っぽさ、雑なことにはあきれるばかりである。

窓屋は、金にならん仕事だからか、いつ来るとは約束しない。「できるだけ早く行きます」といって電話を切って、一週間。何の連絡もない。
  
イギリスでは、すべてがこの調子である。運送屋、水道屋、電話、電気、塗装、庭師など、職人といわれる業種の人々も、じつにあてにならない。

工事の見積もりを頼んでも、すっぽかされたことが何度もある。仕事が欲しくないのか? 商売したくないのか? 不思議でならない。
  
もちろん、業者の皆が皆そうではない。きちんと約束を守ってくれるところもあるが、それであたりまえじゃないか。

イギリスでは決めたことが決めたとおりにいかないのが普通だから、稀にきちんとした業者に当たると、その貴重な電話番号を押し戴いて、次回のために、大事にファイルしておかなければならない。
  
夫は、生まれた時からこういう社会に生息しているから、世の中そういうものだと思っている。だから、電話でまだかまだかと催促することもない。そのうち来るさ、と仏さまのように優しい。

わたしも催促しない。もう、シンドイんだよね、いちいち文句をいうのが。また、催促したからといって飛んで来るわけでもないのだ。

ただ、来るのを待つのである。約束をすっぽかされようが、納期が遅れようが、恬淡として待つ。ただひたすら、待つのである。
  

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待って、待って、待って――。
すっかり忘れたころに、やって来る。そして、やっと来ても詫びるわけでもない。なぜ来なかったと問えば、ぶわーっと、本末転倒のくだらぬ言い訳が返ってくるだけなので、そんなものを聞くのもアホらしい。

だから、来たらすぐに本題に入る。かくして、約束不履行の問題は忘れ去られてしまう。そしてまた、おなじ事のくり返し。
  
イギリスでは、約束を守らないことは悪いことではないのだろうか。日本でこんなことをしたら、信用問題で商売を張っていけないが、ここではどの業者も似たりよったりなので、そういうものだと思ってあきらめるしかない。

そうでないと、わたしたち日本人は血圧が上がりっぱなしで、たちまち血管がぶっちぎれてしまう。
  
これはイギリスだけではない。ヨーロッパに在住する日本人のサイトをのぞくと、たいていこの手の愚痴が載っている。日本の新聞のヨーロッパ衛星版に、パリで活躍する日本人の便利屋さんが紹介されていた。

パリも在留邦人の多い都市だが、やはり、フランス人の業者や職人が、あてにならないのだという。だから、日本人の便利屋さんが、大繁盛。
  
ヨーロッパでも、ドイツ人は整然ときちんとしているのだろうと思っていたら、案外とそうでもないらしいのだ。最近ドイツに行ってきた日本人の話では、現地の邦人もやはり、わたしたちとおなじような愚痴をこぼしているという。
  
こういう日常のさまを見ていると、じみじみと人種の違いを感じる。日本に帰って宅急便を利用すると、予定の日時にちゃんと届く、その確実さに胸がじわーんとなる。人を信頼できることに感動する。

なんという素晴らしい人種なんだ、日本人は。愛国精神とやらで、もう、目がうるうるしてきちゃう。
  
わたしはイギリスに来て、ホント、辛抱強くなりました。《仏の妙子》と呼んでいただきたい。約束をすっぽかされ続けて十二年。わたしには、観音さまのごとく、後光が射しているはずである。

はずではあるが、ま、今回のようにブチ切れてしまうこともあるわけで。うーむ、これはまだまだ修行が足らんということか……トホホ。

No.55 2004/3/27

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