セロハンテープ

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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セロハンテープ

【たかがセロハンテープ、されど……】

  
先日、テレビで刑事もののドラマを見ていた。フロストという名の冴えない風采の刑事が活躍する、シリアスな二時間もののドラマである。

刑事を演じる小柄なデイヴィッド・ジェイソンは、昔はお笑い専門の役者だったが、年を経て銀髪になり、出世とはおよそ縁のない刑事役で、いい味を出している。
  
ほとんど笑顔を見せることもなく、取調べでは怒号を張りあげたりする辣腕の刑事だが、この人、妙に可愛げのあるオッサンなのだ。

それは役柄というよりは、彼自身のお茶目なキャラクターが、脚本に反映しているように思えてならない。
  
やっぱり、あれですね、男というのは、いくつになっても憎めない、可愛げがあるってのが一番。――おーっと、今はそんなこたァ、どうでもよいのだ。
  
場面は、車の中に排気ガスを引き込んで自殺した男が発見され、警察が駆けつけたところ。いつも自分の保身のことしか頭にない上司は、こりゃ自殺にまちがいないネと、あっさり片づけるが、フロストは疑念を抱く。
  
車には、排気口に接続したホースが窓から車内に差し込まれ、窓の隙間はセロハンテープで塞がれていた。

これを偽装工作と見たフロストは、外出中の犯人の仕事場に侵入し、犯人の煙草の吸殻を、ポリ袋に入れて持ち帰る。
  
そして、吸殻の唾液とセロテープの唾液のDNA鑑定を鑑識に依頼する。結果は一致して、犯人が捕まるという筋書きだ。
  
この番組を見た次の日、夫とわたしは町に買物に行った。店のレジで並んでいたら、若い女の子の店員が、レジの横で荷造りを始めた。わたしたちはなんとなく、それをながめていた。
  
まあ、不器用なイギリス人のこと、おいおい、もうちょっとなんとかならんかい。ちょっと貸してごらん、ほら、こうやって、と、思わずよけいなおせっかいを焼きたなるほどに不細工な包み方。しかしこの国ではそんなことは〈Who cares?〉である。
  
彼女は、その包みの封をするために、取り出したセロハンテープを、ピーッと引っ張った。そして口元へ持っていき、テープを歯で噛み切った。

それを何度かくり返して、唾液やら口紅やらのついたセロテープを貼り付けた小包が、できあがった。これを見ていた刑事オットットが、わたしの耳にささやいた。

「おい、あのテープを、鑑識に回してくれ」
「へい、がってん! 吸殻のDNAと一致するか、調べるんでござんすね、親分」(なんで、銭形平次のガラッ八になるんや?)
わたしたちは、前夜のフロストのギャグをやって、キヒヒヒと笑いあった。
  
という具合に、イギリスでは、セロハンテープはたいてい、歯で噛み切るものらしい。これを知らないと、テープから採取するのは指紋だと、思ってしまう。

    
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数年前に、姉がイギリスに来るとき、何か日本から持って来てほしいものはないかと、電話で聞いてきた。わたしはすかさず「セロテープ」と答えた。

すると姉は、電話口で絶句した。それは「そんなものはイギリスにだってあるだろうに、なんでまた……」という訝(いぶか)りの沈黙だった。
    
もちろん、イギリスにだって、セロハンテープはある。そうじゃないのよ、わたしが欲しいのは、あの日本のセロテープに、グリコのおまけのようについている、小さなカッターなのだ。
  
ギザギザの歯のついた小さな金属片、あれを折り曲げでテープに取り付ければ、簡易カッターになる。これがイギリスのテープには、ついていない。

いちいちハサミを取り出すのが面倒だから、イギリス人は、歯で噛み切る。あの小さな金属片がどれだけ便利なものか、イギリスで暮らしてはじめてわかった。
  
簡易カッターがないので、しゃあない、卓上式のテープカッターを買ってきた。見た目は日本のとおなじ、あの重いカッターである。

テープを固定して、その端を金属のギザギザの歯のところまで伸ばして、ピッ。

――と、小気味良い音をたてて切れるはずが、切れない。うそうそ、そんなはずはない。もう一度やってみる。
――切れない。

テープを歯の上にしっかり当てて、手で持っているテープの端を歯に対して直角になるくらいに下に向けて、右方向に引っ張ってみた。それでも切れない。
  
こんどは、テープをねじ切るように、思いきり右にひねりを入れて引っ張ったら、テープが歯の上をツツツッと滑って、テープがカッターからはずれて、飛んで出た。

ギザギザの歯の上でテープが横滑りするという、信じられない事実。
これって……。でも歯は金属だよ。ギザギザに尖っているんだよ。しかも相手はセロハンテープだよ。それでも切れないって、いったい……。
  
物を包むとき、片手で包装紙を押さえて、もう一方の手でテープをピッとやって貼る。これが日本では自然な作業だが、うちでそれをやろうとすると、テープが切れないもんだから、テープを手前に引けば引くほど、カッターごと前進して来るのである。
  
うんもう!と憤怒の力をこめて、片手でカッターを押さえて、テープを無理矢理ぶち切ると、切れることは切れるが、切り口はナナメかガタガタで、まっすぐ切れたためしがない。ホント、このカッターはテープじゃなくて、息が切れるよ、ったく。
  
なぜ、こんなことになるんだろう。
このカッターが、ディスカウント・ショップで買った安物だから?
ひょっとして、テープの方が粗悪品?

安かろう、悪かろうの典型かもしれないが、日本ではちょっと考えられないことだ。わたしにとって日本製品は、たとえ百円ショップの品物でも、ちゃんと機能するという信頼感がある。(ま、ハズレもたまにゃあ、あるけどネ)

    
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日本で、わたしは若い頃に、アメリカからの輸入雑貨を扱う店でアルバイトをして、それらの製品の質の悪さ、縫製の悪さに驚いた。そしてイギリスに来て、まったくおなじ落胆を味わった。
  
たとえば文房具でいえば、物差しや定規の目盛りが、使っているうちに消えてしまう。消えるだけならまだしも、目盛りに使われている塗料がノートを汚すのだから、開いた口がふさがらない。
  
ノートの罫線が、水に濡れると滲(にじ)んで消えてしまう。日本のノートには、縦線を引くのに便利なように横罫線に目盛りがついているが、イギリスのノートにはそれがない。
  
そして、セロハンテープ。今からどれくらい前に発明されたものなのかは知らないが、何十年か前、発売された当初は、日本でもあの金属片は、ついていなかったかもしれない。

あるいは、痒いところに手の届く思考をする日本人のことだから、最初から、簡易カッターをつけて市場に出したかもしれない。
  
が、仮に最初はついていなかったとしよう。実際に使ってみると、いちいちハサミでテープを切るのが面倒だと気づく。なんとかできないかと頭を使い、工夫する。そして金属片でカッターを作ってしまう。
  
ところが、イギリスのメーカーには、誰ひとりとして、小さなカッターを取り付ければ便利だという発想をする者はいないらしく、延々と何十年、同じものを製造し、今でも歯で噛み切っているのだ。
  
これはテープだけではない。すべての製品にいえることだ。日本では一度発売したら、それをもっと便利に使いやすくしようと考えて、どんどん改良していく。
  
ところがイギリスでは、一度発売したら、そこであぐらをかいて何もしない。改良するところは山ほどあるのに、改良しない。だから進歩がない。
  
もっとも、そんな不便なものしか知らなければ、その環境で、何の疑問も焦燥もなく、暮らしていけるだろう。
  
ところが、日本製品の便利さ、素晴らしさを知るわたしにとっては、セロハンテープのような些細なことから、イライラがつのり、それが、国民性の違いから来る日常のイライラと交錯する。

そして、そこからさらに、外国暮らしのストレスへとつながっていくのである。たかが、セロハンテープなんだけどねえ……。

No.51 2004/2/28

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