紅茶 (1)

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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紅茶 (1)

【英国の紅茶事情 Part 1】  

英国のお紅茶でございますか?
そうでございますね、お茶葉はダージリンのファースト・フラッシュにいたしましょうか。

これは、生産量が少ないうえに、ゴールデンティップスが多く含まれておりますので、お値段はかなりお高くなりますが、なんといっても香りがよろしゅうございます。
  
その他にも、セカンド・フラッシュですと、お味にコクが出ますし、オータムナルは独特の渋味がございます。これはもう、お好みで、どちらでも結構でございます。
  
お紅茶を淹れるときに、一番大切なことはジャンピングでございますが、これはやはり球形のポットをお使いになりませんと、充分なジャンピングはむずかしゅうございます。

磁器のポットに、ティーコゼーをかぶせてゆっくりと抽出したお茶を、温めたティーカップに注ぎますが、ゴールデンドロップをお忘れなく。この最後の一滴に、お茶葉のうまみが凝縮されておりますのよ。
  
――なーんて。
じつはこの文章、日本の紅茶愛好家のウェブサイトに載っていた、専門用語を拝借して書いてみた。ところが、それがれっきとした英語であるにもかかわらず、あっしにゃぁ何のことやら、サッパリわかりやせん、なのだ。
  
イギリス人であるオットットに聞いても、サッパリわかりやせんというのだから、情けない。いやあ、それにしてもすごいなあ、この薀蓄。日本人の美学を極める姿勢というものは、時として本家を凌駕するところまで、到達してしまう。
  
ま、それはともかく、ここまで講釈を垂れなくても、日本ではイギリスの紅茶について、きわめて繊細かつ優雅なイメージがあるらしい。紅茶の本場だからさぞかし……という期待から来るのだろうが、しかし、これは日本人が勝手に描いている、夢まぼろしと、ご承知おきいただきたい。
  
わたしはロンドンの高級ホテル、リッツでアフタヌーン・ティを摂ったことがあるが、紅茶の好みは銘柄を聞かれるだけで、ファースト・フラッシュ(春摘み)だの、セカンド・フラッシュ(初夏摘み)だの、という段階には及ばないのだ。そして、一般のイギリス人は、ジャンピングという用語さえも、ご存じない。
  

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先日、わたしのメルマガを読んでくださっている読者のSさんから、こんなメールをいただいた。
  
「主人の転勤で初めて海外駐在し、イギリスに来て2年が過ぎましたが、どうしても気になることがあります。

イギリスといえば紅茶! と勝手に思っておりましたが、ほとんどの喫茶店で注文した紅茶がティーバッグで出てきてしまうのに、ちょっとガッカリしています。なぜティーバッグなのでしょうか」
  
これを読んで、わたしは思わず苦笑した。そう、ガッカリさせて申し訳ないが、イギリスでは、なんたってティーバッグが主流なんである。

ちなみにわが家でも、労働者階級御用達のスーパー、テスコで買ってきた、百個入りのお徳用大箱のティーバッグを、愛用いたしております、はい。
  
そもそも、なぜティーバッグが発明されたのか。
これについては、ロンドンの紅茶博物館に行ったとき、館長さんから面白い話を聞いた。
  
1950年代に、イギリスのテレビで民間放送が始まった。まだ白黒テレビの時代である。そのときに、コマーシャルの間にお茶を淹れようにも、お茶葉では時間が足らない。素早く、三分間でお茶を淹れるために、ティーバッグが開発されたのだそうな。
  
もともと、イギリス人は食に興味がなく、味には鈍感な民族である。テレビの影響でお目見えしたティーバッグ、早いし手間はいらないし、洗うのも楽ちんというスグレモノ。こんな便利なものが世の中を席捲するのに、そう時間がかからなかったことは、容易に想像できる。
  
さらにメールの中でSさんは、イギリス人でコーヒーを飲む人が多いことに驚き、かつ、それがまたどうしてみんな、判で押したようにマグカップで、インスタントコーヒーなんでしょうと嘆く。
  
イギリス人ならみな紅茶党と思うのは、日本人の勝手な解釈だろう。たしかに、ここ十年ぐらいで、コーヒー党が増えてきているように思うが、もともとヨーロッパでは、食後にコーヒーを飲む習慣がある。だからイギリス人でも、食後は、紅茶ではなくてコーヒーを飲む。
  
インスタントコーヒーの愛用は、ティーバッグと同様、味よりは実用を取るという国民性に拠るのだろう。挽いたコーヒーを淹れるときは、イギリスではカフェティエを使うが、これがまたSさんを驚かせた。
  
「子供が英語をお習いしている先生のお宅では、カフェティエという押し出し式のものでコーヒーを淹れてくださり、これまた日本の喫茶店では、紅茶を淹れているのしか見たことがなかったので、これでコーヒーも淹れられるのだ!とびっくりしました」
  
カフェティエは、その名前からしても、コーヒーを淹れる道具なのに、それがなぜ、日本の喫茶店で紅茶に使われるのか、不思議である。それにあのビーカー型の容器では、構造上、部分的にしかジャンピングが起らないので、紅茶には向かないそうな。


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日本に帰国したとき、わたしの友人宅の食器棚に、一目でウエッジウッドとわかる、野イチゴ柄のティーカップがあった。ところが、こういう高級なボーンチャイナを、イギリスの友人宅で、ほとんど見たことがない。
  
イギリス人は紅茶を、まず寝起きに一杯(この習慣は忙しい現代では廃れてきているが)、朝食に一杯、イレブンズィズ(朝十一時の休憩)に一杯、お昼に一杯、午後四時のお茶に一杯と、一日に何杯も飲む。
  
彼らにとって紅茶は、日本人にとっての番茶とおなじランクのものなのだ。日本であなた、番茶を飲むとき、やれどこの銘柄だの、何番摘みだのと講釈を垂れながら、高級茶器で飲みますか? 飲まないでしょう? それとおなじこと。
  
毎日ガブガブ飲むのだから、いきおい、ポットにしろティーカップにしろ、割れても惜しくない、その辺で売っている日常雑器を使うことになる。紅茶をマグで飲む人も多い。
  
日本のように、大事に戸棚にしまってあるウエッジウッドのカップを、たまぁに出してきて、お紅茶をいただきましょうというのとは、わけが違う。いちいち、優雅に薀蓄をたれながら、お茶を淹れてたんじゃ、それだけで日が暮れてしまう。
  
だから、一般家庭で常備しているのは、わが家にあるような百個入りのティーバッグの大箱。しかも、アールグレイだのアッサムだの、そういう銘柄じゃない。なんだかよくわからんが、適当にブレンドされた、お徳用パックである。
  
Sさんが二十年前に、観光でイギリスに来たときには、その辺のどうということもない喫茶店でも、ちゃんとお茶葉で淹れた紅茶が出てきたそうだ。もちろん今どきのイギリスでも、探せばそんな喫茶店はある。

しかし、本物のお茶に確実にありつくには、高級ホテルのティールームに行って、下手をすると食事並みの代金を払って、お茶を飲むしかないのかもしれない。

No.47 2004/1
  
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