ネクタイ

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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ネクタイ

【教授のネクタイ】
  
わたしの老父は今年八十七になったが、しあわせなことに、これといった大病もなく、ボケもない。八十五の歳でパソコン教室に行き、今は毎日、コンピューターを相手に、碁を打っている。
  
その父が、イギリスに来たときに、カンタベリーに行った。ちょうどその日は、マーケット・ディ(市の立つ日)で、広場や歩行者天国の通りに、テントを張った出店が、たくさん出ていた。
  
それをひやかしながら歩いていると、突然父が、「わしは、ネクタイを買う」といって、ネクタイ屋に入っていった。三ポンド均一とか、そんな安物である。
  
父がつかんだ紺色の一本を見て、姉とわたしは仰天し、
「ひええーっ、お父さん!」
と叫んで、テントの中に飛び込んだのが同時だった。

だって、そのネクタイの柄ときたら!
ロンドンのビッグベンと真っ赤なダブルデッカー(二階建バス)が、でかでかと描かれていたんだもの!
  
ちょ、ちょっと、お父さんッ。気でも狂ったんちゃう?
止めに入った二人の娘を制して、父はこういった。
「わしはイギリスに来た記念に、面白いからこれを買うんだ。まともなネクタイなら、いらん」
  
そういえば、お役所勤めだった父は、ネクタイなんか、腐るほど持っている。父はお遊びで、シャレで、そのネクタイを買うというのだ。突然トチ狂ったわけではないのを知って、やれやれと胸をなでおろした。
  
なるほどねえ。うん、いいかもしれない。
ロンドン観光、おのぼりさん御用達のネクタイをしめた父を、想像してみる。禿げ頭の老爺のカーディガンの下から、チラと赤いダブルデッカーがのぞくなんて、うふふ、かなりお洒落かも。
  
あの頑固一徹、真面目な上に「クソ」がつく父に、そんな遊び心があったなんて。わたしは、それをとても好ましく、またうれしく思った。

それにしても、このカンタベリーの街に来るまで、父にこんな一面があることを、まったく知らなかったとは……。いやはや、この歳で、父について新しい発見をしようとは思わなんだ。
  
  
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こういった、お遊びでしめるネクタイが、熟年の英国紳士のあいだで流行っているわけでもないだろうが、わたしはここのところ、よくお目にかかる。
  
先月、夫の友人のモリスに会ったとき、「おっ、なかなか渋いネクタイやん」と思った。グレイの地で、全体に白と黒の小さな模様がある。ところが、ところが、よぉーく見ると、その模様はなんと、ペンギンさんではありませんか。

マンガチックなイラストで描かれたペンギンさんが、一面にプリントされているのだ。でも、少し離れると、ペンギンではなく、ただの模様に見える。
  
先日、ナショナル・トラストのツアーで、ケントにあるお城に行ったとき、同行した女性が、ご主人を紹介してくれた。リチャード卿という、サー(Sir)の称号を持つ紳士なので、少々緊張したが、少しもスノビッシュなところがなくて、気さくに話しかけてくれる。
  
この日のリチャード卿のネクタイは、臙脂の地にベージュのプリント。
ところが、ところが、よぉーく見ると、その模様はなんと、クマさんではありませんか。それはそれは可愛らしいテディベアが、全体に整然と並んでいる。
  
「わあ、テディベアなんですね。素敵!」
と、わたしが誉めると、リチャード卿はでへへぇ〜と破顏して、

「これね、いいでしょ、いいでしょ? シリーズで二十本ぐらい、出てるんですよ。テディベアがスキーしているのとか、パソコンやってるのとか、いろいろ。今ぼくが持ってるのは、そのうちの五本で、テディベアが、なんちゃら、かんちゃら」
と、とめどがない。

奥さんは、そばでニコニコして、卿の自慢話を聞いている。まるで、大きな幼児を連れたお母さんみたい。
  
モリスもリチャード卿も、元は大学教授である。退職した熟年の紳士たちが、さんざんオーソドックスなタイをしめてきたあとで、自由の身になった今、お遊びを楽しんでいる。
  
以来、老紳士に会うとき、ネクタイを見るのが楽しみとなった。いや、老紳士だけではない。気をつけて見ると、年齢に関係なく、イギリス人は意外とこういうタイを、楽しんでいる。

いかつい感じの、ヒゲの中年男性とすれちがったあとで、彼のネクタイが、ワンコの模様だったのを思い出して、ひとりでクスっと笑ったりする。やっぱり、ユーモアのお国のせいかしらん。

  
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