韓国人ユジン

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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韓国人ユジン

【純粋培養とヨーロッパ仕込み】  
  
ここ二ヶ月ほど、韓国人の女医さんのユンが、英語検定試験のための集中レッスンで、わが家に通っていた。

先日試験が終ったので、どうだったかと聞くと、
「難しくはなかったけど、いくつかケアレス・ミステイクをやってしまいました」
との返事。「やさしかった」といわずに「難しくはなかった」というあたりが、奥ゆかしい謙遜の表現である。
  
さて、この礼儀正しき韓国純粋培養のユンと、ヨーロッパ仕込みの韓国人であるわたしの友人ユジンは、これが同国人だろうかと思うほど、違う。
    
もちろん、個人的な性格の差もあろうが、どうもわたしには、あの東方礼儀之国を離れて、ユジンが二十年近く暮らしているヨーロッパの影響が、大きく寄与していると思えてならない。これは、彼女が礼儀正しくないという意味では、もちろんない。
  
一般的に、ヨーロッパ人にくらべれば、わたしたち東洋人はみな、礼儀正しい。ただ、ユジンのほうがユンよりずっとオープンで、リラックスしているのだ。つまり、しゃちこばった堅苦しさがない。
  
最初のレッスンの日、ユンはスーツで来た。その次は、黒のパンタロンにシルクと思える黒いTシャツ。ベージュのテーラードジャケットの襟に、光るブローチが一つ。それ以外にアクセサリーはないが、必要とも思えない。
  
いつも黒を基調としたシックな装いで、それは彼女の美貌だけでなく、センスの良さや知性をも際立たせる。この恰好で面接に行けば、好感度百パーセント、まず採用まちがいなし。
  
一方、クリニックに勤務する歯科医であるユジンは、診療中、白衣の下
はTシャツにジーンズ、靴は運動靴。サボのような、つっかけを履いているときもある。日本や韓国では噴飯物だろうが、ヨーロッパではこれでOK。
    
わたしがオランダを旅行したときに入った銀行では、制服がなくて、行員全員が、ポロシャツなどのラフな服装だった。場所をまちがえたのかと思い、あわてて外に出て看板を確かめた。するとまぎれもなく銀行だったので、再び入って、ジーンズのおねえちゃんにお金を両替してもらった。
  
歯科医や銀行員が、ジーンズで働ける。そんなリラックスした気楽さが、ヨーロッパにはある。そういう、ぬるま湯にとっぷり浸かったような気楽さに慣れてしまうと、もうアキマヘン。日本に帰ると、昔はあたりまえだと思っていた日本の習慣が、いささか窮屈に感じる。

なにもそんな大層な。そない格式張らんかてええやんか。もっと気楽にいきましょうや。そんな気分になってしまうのだ。

  
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ユジンと知り合ってまもなく、彼女が夕食に招いてくれた。韓国の巻き寿司と、味噌汁が出た。巻き寿司は、見た目は日本のそれとおなじだが、ご飯の味付けが酢ではなくて、塩と胡麻油だったのには驚いた。

このときわたしは、わかめの味噌汁を、日本でするのとおなじように、器を持ちあげて、口をつけて吸ったのだ。これがとんでもなく失礼な作法だなんて、当時は知る由もない。

韓国では、食器を手に持つことが、無作法なのだそうな。汁とご飯はスプーンで食べ、おかずを箸で食べるというマナーを、わたしが知ったのは、つい最近のこと。
  
そういえば、あのときスプーンが横にあったよなあ。わたしはてっきりあれはデザートのスプーンだとばかり思っていて……。今になって冷や汗が出るが、いやあ、これがユジンでよかったよ。
  
彼女は、わたしのことを、行儀の悪い奴と思っただろうが、何事もなかったようにニコニコしていた。もし純粋培養のユン先生だったら、どうだろう。今ごろ口をきいてくれるかしらん。きっと、あのきれいな顔が「うんまあ、なんてお行儀の悪い」と、憂いに曇ったことだろう。
  

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先日、マーゲイトの海岸通りのカフェテリアで、ユジンとわたしは昼食
を共にした。昼休みに、クリニックから出てきたユジンと待ち合わせて、海を眺めながらハンバーグをほおばる。国は違えども、故国を遠く離れて暮らす、子供のいない女同士、共通の話題はたくさんある。
  
ユジンは二十歳ぐらいのときにドイツへ行き、その後ドイツ人と結婚し、離婚した。十年暮らしたドイツを離れて、ベルギーの大学で歯科医の免許を取り、ヨーロッパ育ちの韓国人と再婚し、ふたりでイギリスに移住して三年になる。
  
彼女が韓国に帰国したときの話になった。国に帰ると、姉妹などみんなが、きれいないい服を着ているというのだ。そう、わたしがこれまでに会った純粋培養の韓国女性たちはみな、シックで素敵な装いで、何よりもセンスのよさに驚いた。だから日本人よりは、大人っぽく見えた。
  
十年ばかり前までは、ロンドンで見かける東洋人のうち、ブランドものを身につけていれば日本人だと察しがついた。ところが今は韓国にもブランド志向の熱狂が浸透して、まったく見分けがつかなくなった。
  
そんななかで、帰国したとき、一番ダサい恰好をしているのが、ヨーロッパに住むユジンで、
「あんたの格好、まるで《ほにゃらら》みたい」
と笑われたという。
  
《ほにゃらら》というのは――わたしはどうしても韓国語の発音がおぼえられないのでこう書くしかないのだが――中国人のことで、これはどうやら、韓国人にくらべて服装に頓着しない中国人を呼ぶときの、蔑称らしいのだ。
  
「わはは、わたしなんか韓国に帰ったら《ほにゃらら》だよ」
と、彼女は大口をあけて、カラカラ笑う。
「あはは、わたしも日本に帰ったら《ほにゃらら》だよ」
と、わたしも、実家のおとなりのおばちゃんの方が、自分よりお洒落なのを思い出して、笑う。
  
ユジンもわたしも、大きなスーツケースを持つのが大嫌い。普段着で旅
をし、最小限の荷物しか持たないから、着たきりすずめである。それを洗濯している間は、姉妹のお古だろうが何だろうが、その辺にある適当なものを身につける。
  
かまへん、かまへん。何を着ようと、ええやん。
人がどう思おうと、ええやん。わたしはわたし。Who cares?
  
日本にいたころのわたしには、考えられないことだ。イギリスに来て変ったなあと、つくづく思う。ヨーロッパに確実に洗脳されてきている自分に、苦笑する。
  
「さ、仕事に戻らないと」
久々のおしゃべりを楽しんだあと、ユジンはクリニックに戻っていった。手を振る彼女は、あい変わらず、ジーンズにジョギングシューズだった。


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