韓国式マナー

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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韓国式マナー

【東方礼儀之国からのお客さま】  
  
先月から、オットットは、英語の個人教授をしている。週三回のレッスンで、生徒は、韓国人の産婦人科の女医さんである。名をユン・リーという。
  
韓国では夫婦別姓と聞いて、驚いた。日本では、夫婦別姓化への民法改正が話題になっているが、韓国では、それが伝統なのだそうな。
  
ところが、イギリスに来て、別姓では何かと不都合なので、彼女は便宜上、夫の姓のリーを、苗字として使っている。そして名前は、イギリス人にとって非常に発音しにくいので、発音の易しい自分の姓の「ユン」を、名前として使っているのだという。
  
それにしても、いやあ、才色兼備とは、こういう人のことをいうんだろうねえ。切れ長の、涼やかな目元。シミひとつない、白い肌。化粧は、色を押さえた口紅だけ。チェ・ジウにも負けない美しさである。彼女のチマチョゴリ姿が見てみたい。
    
ユンは、薬剤師であるご主人と、小学生の子供ふたりの、一家四人で渡英して、一年になる。カンタベリーの郊外に家を借り、車を買い、子供を、ええとこの子が行く私立校(つまり、授業料がめちゃ高い)に通わせている。
  
「今回はじめて、専業主婦という職業につきました」
といって、きれいな白い歯を見せて、にっこり笑うユン。夫婦で働いて、この渡英のために蓄えたのだろう。

それにしても、家賃も私立校の学費も決して安くないイギリスで、一年のリフレッシュ休暇が持てるという、経済的ゆとり。うらやましい限りである。
  
もう一年滞在してイギリスで医師として働きたいということで、そのために必要な英語の資格を取るため、彼女は受験勉強中なのだ。

  
  
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わたしは、ユンに会うのを楽しみにしていた一方で、ちょっぴり緊張もしていた。だって韓国といえば、色濃く残る儒教の影響で、礼儀作法にはやたら厳しいお国と、聞いている。
  
たとえば、年長者を敬う韓国では、年長者の前で煙草を吸ってはいけない。だから、成人した子でも、父親の前での煙草はご法度である。たとえ子が還暦を迎えるような歳になろうとも、親が生きているかぎりは、だめなのだ。で、そういう場合にはトイレに行って吸うのがマナーである。

など、韓国の礼儀に関する情報を、わたしはインターネットで仕入れて、日本との違いに、少なからず驚いた。
  
また、かの国では、敬称にもうるさいらしい。先生には、苗字ではなくてフルネームに「先生」をつけて、さらに「様」をつけて呼ぶ。彼女は医師だから「ユン・○○先生様」と呼ばれていたのだろう。それが、イギリスに来て、いきなり呼び捨てにされるのは、かなり違和感があるんじゃないかしらん。
  
はじめてのレッスンの日、授業のあとでわたしが紅茶を出すと、彼女はさっと立ち上がって、カップを受け取った。イギリス人は、いや、日本人でもこういうことはしないので、少々当惑した。
  
ちょうどそのとき、ご主人が車でユンを迎えに来た。イースター休暇で、学校が休みだったので、子供たちも同乗していた。家に入ってもらってみんなでお茶にしよう、というと、

「あ、だめだめ。きょうは主人はポロシャツなんです。きちんとした恰好してないので、だめです」
  
えっ、ポロシャツがだめ? ひえーっ、そんならジーパンにトレーナーのわたしゃ、どないなりますのや? もちろん、無理に勧めて、ご主人にもお茶に加わってもらった。
  
お茶が終ると、ユンは韓国語で何やら言い、ご主人と子供たちは部屋を出た。それからユンは、わたしに向かって、むにゃむにゃと、何やら不可解な英語で言った。その意味が、さっぱりわからない。
 
ニブいわたしが「へ?」という顔で立っていると、こういうことには疎いはずのオットットのほうが、気をきかせて、「ちょっとあっちに行っててくれる?」とわたしを追い払った。
  
なーんだろ、部屋でふたりっきりにならにゃならんことが、あるなんて。この場合、一目会ったそのときから、ふたりの間に恋が芽生えて、まさに不倫の幕開け――
という設定は、どう考えても無理がある。では、何なんだ、あれは。
  
一家を見送り、事の次第が明らかになった。
ユンはあのとき、授業料の支払いについての話を、夫としたのだ。支払いをレッスンごとにするのか、それとも週末にまとめてするのかを訊き、レッスンごとであれば、その場で支払いをするつもりだったのだ。
  
なるほどねえ。お金の話をするための人払いか。
韓国では、人前での金銭の話や授受は、無調法なことなのかもしれない。  
  


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次のレッスンのとき――
レッスンが終わって、車が迎えに来たので、夫とわたしは、見送るために玄関の外へ出た。すると、ユンがダダダーッと走って、車に駆け寄った。どうしたんだろうと見ていると、彼女は手招きしながら、何やら韓国語で叫んでいる。

「早くッ、降りて、降りて」
と言っているらしい。ご主人と子供たちが車の外に出て、一列に並んだ。そうして、お母様の先生様であるオットットと、その奥様であるわたくしに、一家そろってご挨拶。
  
い、いや、なにも皆さん、わざわざ車から降りて、整列していただかなくても。わたしたちは、その、ただ、車の窓に「バイバーイ」ってするつもりだったんだけど……。
  
いつもきちんとした服装で、礼儀正しいユン。とかくグータラに傾くわたしに、彼女はチクリと反省の針を刺してくれる。そんな彼女だが、先日、レッスンが終ってテーブルをかたずけていると、椅子の上に、忘れ物があった。
  
ありゃ、まーた忘れていったよ、ユンは。このまえはペンで、こんどはスカーフ。あの、目から鼻へ抜けるような聡明な美女の、こんなおっちょこちょいぶりが、ご愛嬌である。
  
ま、わたしの方がユンより年長なので、それほど気を使うこともないのだろうが、それにしても礼儀之国からのお客さま、粗相があってはなりませぬ。週のうち三日だけは、いつになく、おしとやかにお茶をお出しする、わたくしでございます。おほほほ。


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