ハラスメント

イギリス生活よもやま話【エッセイ】

プロフィール

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Teeka(フリート妙子)。イギリス人と結婚して、イギリス南東部に住んで、15年が過ぎました(はっや〜い!)。
夫とのなれそめは、よくある話なんですが、彼がわたしの英語の先生だったことです。
静かな海辺の田舎町で、教師を退職した父ちゃん(夫)と、ふたりで暮らしています。

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ハラスメント

【ナメんなよ】 
  
うららかな春とはいえ、イギリスでは、夕刻になると急に気温が下がって、冬に逆戻りするときがある。そんな黄昏どき、海からの潮風が吹きぬけるマーゲイトの駅で、わたしはベンチに腰掛けて、迎えの車を待っていた。
  
ガランとした人気のない駅舎に、七、八歳の男の子がやって来た。抜けるような白い肌、ゴールドブラウンの捲き毛に、青い瞳。

一見すると、ミケランジェロの天使のように愛らしいその子は、わたしの真正面に来て、いきなり両手の人さし指を自分のこめかみに当てて、きゅっと引っぱりあげた。目が細く吊りあがって、人相が変る。
  
おまえの顔はこんな顔――。
このチビは、わたしにむかって、無言でそう言っているのだ。
  
平和主義者で小心者のわたしは、こういう場合は、たいてい何事もなかったように無視するのだが、そのときは、寒さのなかで約束の時間に来ない車にイライラし、いささか機嫌が悪かった。
  
わたしは、そのチビを見据えて言った。
"Go away!"(あっちへ行け!)
チビは驚いたらしく、「ひっ」という顔をして目をむくと、くるりと踵を返して逃げていった。

わたしとしては「とっとと失せろ、このクソガキャァ」のつもりだったのだが、わたしの英語なんて、ちーっとも迫力がない。だってあたくし、悪い言葉って存じませんし、そんな言葉、使ったこともございませんもの。
  
しばらくして、あーっ、しまった、「失せろ」は "get lost" じゃないか。いや、それよりも "piss off" のほうがドスがきいてるかも。くっそー、と思い出しては口惜しがる(しっかり悪い言葉知っとるやないか)。

いつもこうなのだ。あとで気がつくテンカン病いで、肝心なときには間抜けたセリフしか出てこないから、わたしは、喧嘩がすこぶる下手である。
  
わたしたち日本人の顔は、目が大きく見開いていつもビックリしたような表情の西欧人にくらべて、目が小さくて細い。だから両目の横を引っ張ってキツネ顔をつくると、それは東洋人を意味する。
    
それをはじめて知ったのは、十数年前。イギリスに来てホームステイをしたときだった。その家の子がわたしに向かってキツネ顔をした。

それを見た父親は、すぐに子供を叱った。そうか、西欧人にとって東洋人はキツネ顔なんだと、それが最初に学んだ、イギリス人サイドの一般常識だった。

 
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「こないださあ、バスのなかで、むっかついたァ」
日本茶をいれながら、おなじ町に住む友達の由紀子さんが言った。

彼女がバスの座席にすわっていると、十二、三歳の男の子が乗り込んできた。その子は由紀子さんを見るなり、彼女に向かって「うわっ!」と叫んで驚かせた。彼女が " Stupid boy!(バカな子)" と言うと、後方の座席に行ってガムの紙を丸めて、由紀子さんの頭に投げつけた。

「キッと睨んだらやめたからいいけど、もしやめなかったら、その子の席に行って、学校と親の名前を聞いてやろうと思った」
と彼女はプリプリしながら、ボリボリおかきを食べた。
  
日本人が集まったときにこういう話をすると、いや、出てくる、出てくる。わたしもイギリス人の子にナメられた、あの人もそうだった、この人も、と次々と似たような体験談が、噴出する。

「Y子さんも、そんな目にあったんだって。『もう、くやしくて。だからあたし、ガン飛ばしてやったわ』って言ってたよ」
「ええーっ、あのY子さんがァ?」

想像して、わたしたちは笑った。だって、Y子さんは美人でおしとやかで、とても上品な奥様なんだもの。あのつぶらな瞳で、どうやってガン飛ばすんだァ? 効くのかい、あれで? 
  
ところが、この程度ですめばまだしも、もっとひどい事件があったことを、わたしは最近になって知ったのだ。

それは、語学留学でマーゲイトに来ていた女性(24歳)で、公園の近くを歩いていたら、茂みの中から姉弟らしき女の子と男の子とが出てきて、差別めいた言葉を投げかけた。
  
彼女が無視して歩いていたら、突然、後ろから女の子が彼女の髪の毛をわし掴みにして引き倒したのだ。一瞬何が起こっているのか、わけがわからないままに、後方に数十歩引きずられて転倒した。

「何すんねんっ! 誰やとおもとるんやっ!」

怒りとともに、無意識のうちに飛び出した関西弁。彼女は起き上がって、思いつく暴言をひとしきり吐いた。

そうしてすっきりし、奴らの顔を見ると、かなり青ざめていたそうな。そして彼らは、"I am sorry"と言いながら、走り去って行った。


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こういった事件を引き起こすのは、ほとんどが十二、三歳の子供である。この手のハラスメントは、イギリス人に向かうこともあるが、やはりターゲットになりやすいのは、わたしたちのような、白人以外の人種である。
  
先の大戦直後、ビルマのラングーンで、イギリス軍の苦役に服した会田雄次氏は、その著『ヨーロッパ・ヒューマニズムの限界』のなかでこう書いている。

「この服役中、感じたのはイギリス軍のヒューマニズムではなくて一見丁重な英軍当局の取扱いの中に、日本人を絶対に人格として評価しないアングロ・サクソン人というもののたとえようもない冷たさだけであった」
  
戦後半世紀を過ぎて、それは変っただろうか。
時代の変遷を経て、それは薄れていったかもしれない。

しかし、彼らの意識の根底にある「白人は人種のうちで最も優れている」という優越感は微動だにしない。

氏のいう「目立たないが気がついて見ると血が逆流するような屈辱感と反感をそそられる待遇」に、わたしは実際に接したこともある。こういった親の意識が、子供に受け継がれていくのは当然のことだろう。  
  
白人至上主義のまっただ中で暮らす、胴長短足、黄色い皮膚にキツネ顔のわたしたち。学校の退け時にはできるだけバスや電車に乗らない、という防御策をとってはいる。

しかし、いつ襲ってくるかわからぬハラスメントのために、「ナメんなよ」という気概を持って暮らすことは必要なのだ。うんむ、わたしもイザという時のために、ドスのきいた関西弁を磨いておかな、あかんなあ。


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